非凡な人間
俺は、どこにでもいる平凡なサラリーマンだった。そこそこ幸せで、そこそこ不幸な人生を送っていた。でも、ある時、ふとこう思った。
『非凡な人間になりたい』
どんなことであってもいいから非凡になりたい。そんな思いが日に日に強くなった。それは俺にとって初めてのわがままだった。
だからと言って、平凡な勇気とやる気しか持ち合わせていない俺は、日々仕事やらなんやらに時間を割いてその思いを忘れようとした。
ダメだった。最後の方は非凡になるためにはどうすればいいのか、仕事中に考え始めてしまった。だから、会社はクビになった。
まぁ、そんな状態だったとしても、周りに迷惑をかけないよう行動していたのだが、上司に何かしたいことがあるんだろう?と聞かれて黙っていたら、いつの間にかそうなっていた…怒られた?今でもよくわからない。
その時点で既に非凡だ。そこでやめておけばよかった。それに気づいた時にはもう手遅れだった。今更後悔しても遅い。
会社に通勤することもなくなり。時間はたっぷり確保できるようになった。俺はその有り余る時間を費やし、本屋やネットなどで非凡になるための研究を始めた。
その方法は割とすぐに、それも大量に見つかった。一番簡単だと思われたのが自殺だった。
でも、別に俺は死にたいわけではない。むしろ俺は生きているうちに非凡になりたいのだ。他人に非凡だと認められたかったのだ。
いろいろな方法を試した。その中で最初の成功例は転移魔法陣による異世界転移。おれも昔はこういうものに憧れたもんだ
いや、あれは正確に言えば成功でもなんでもなかったな。実験当初は『こちら側の世界』からの観測のみだったため、本当に転移できていると思った。
何度試行錯誤しても、転移後の場所のデータは得ることができなかった。その結果に俺は苛立ちを覚えた。
結局俺は待つということができなかった。俺は俺の感覚器官そのもので、データを取ることを決意した。既に血の繋がった人間は一人もいない。死んだら誰も認めてはくれないだろうが、後悔することもできなくなるのだから、死ぬのはあまり怖くなかった。
俺は自分自身の研究の末、完成した魔法陣を使った。
結果から言えば大成功。過程も言えば大失敗。
まず、過程が大失敗だった理由を言おう。俺の作った魔法陣は完璧ではなかった。それはそうだ。付け焼き刃の知識なんぞでどうこうできるレベルの話ならば既に異世界間交流でも始まっていただろう。それでも、その時の俺は自分の研究結果に自信を持っていたし、長いこと勘違いをし続けていた。
次に結果が大成功だった理由を言おう。俺は五体満足で異世界に転移していた。
ここで、なぜ俺が奇跡的に転移に成功したのか、説明しておこう。
俺が転移した世界では大規模な召喚が行われていた。その魔法陣は俺の作った魔法陣とは次元が違うと言っても過言ではないほどの完成度であった。しかしその儀式は完成する前に破壊されてしまった。その結果、別の世界から力を持った何かを召喚することは出来る状態ではなかった。
対して俺は世界同士の壁のようなものをすり抜けその外側にある場所にまで到達できた。
そもそも、別の世界からの召喚の1番の問題は世界の壁のようなものを通り抜けさせるための小さな穴のようなものを作りだす必要があるということ。失敗した召喚の儀式では二つもの穴を開けることは不可能だった。しかし、俺ならば。片方の世界に穴を開けていた俺ならば。一つしか穴を開ける必要はない。
その結果本来呼び出されるはずがないほど力のないおれが、異世界に転移、いや漂着した。
しかし、召喚の魔法陣はある程度以下の力を持ったものに力を与える効力もあった。
俺が力を与えられた時のことを伝えよう。
どうなった?転移は成功したのか?俺は恐る恐る瞼を開いてみる。そこにあったのは大量のスクリーン。そこでは、意味不明な文字の羅列が大量に書き込まれている途中だった。
俺は唖然として、そのスクリーンの文字をよく見た。それでも文字の意味は分からなかった。そりゃそうだ。偉大な考古学者様とか、伝説のスパイならまだしも平々凡々なサラリーマンである俺が意味不明な文字の解読なんてできるわけがない。
それに、スパイだって、その解き方をあらかじめ知っているから読めるわけだしな。
そうして文字を見ること数分変化が起こり始めた。一部の文字が日本語表記になっていっていた。もう数分経つと完全に日本語表記になった。
そこに書かれていたことを読み俺は驚愕した。何故ならばスクリーンの一枚は俺に何らかの能力をランダムで与えるというものになっていたからだ。そこには大量に能力が書いてあった。が、突然スクリーンが動いたと思うと次の瞬間能力が決定され始めた。
二つほどの能力が決定され、最後に「超巨大化」という能力が設定されかけた。俺は昔から巨大な存在にいい印象がない。
こっちが使うと全然攻撃が当たらないし、あちら側だと当たり判定が大きすぎてどこ攻撃しても大抵当たるからだ。バランスこそが重要なのである。まぁ、その話は置いておこう。
俺はとっさにその下にある「超怪力」を選択した。次の瞬間俺は頭から地面へ落下していた。そして、体がバラバラになる夢を見ながら…