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【1章】であい 後編

 



常識では考えられない。

幽霊との同棲なんて。

初めは断るつもりだった。

だけど、今は受け入れてしまおうか…なんて。

まだ、少しだけなのだが。

 

俺は今も昔も人の頼みを断る事が極端に出来ない。

その原因は俺の過去。

昔から典型的な八方美人で、誰にでも変わらずニコニコして接していた。

今もそれは変わらない。

 

常に誰かに好かれていたい。

 

だからこそ、誰からのどんな頼みでも受け入れた。

嫌われたくなかったから。

人から突き放される痛みを知っているから…

 

相手のためなどではなく、自分のため。

自分の存在価値をそこに見出していた。

そこに見出すしかやり方を知らなかった。

 

そして、そんな自分が嫌いだった。

 

常に、顔に貼り付いた「いい奴」という仮面を脱ぎ捨てたいと思っていた。

しかし、そんなチャンスは無かった。

怖かったのだ。自分の周りの環境が変わる事が。

 

今回の話を聞いてまず思ったのが、「可哀想」という同情や憐れみだった。

そして、自分と同じ過去を持つ子がいる事に親近感を覚えた。それが、小さな女の子の幽霊だったとしても。


更に「自分が変われるチャンスだ」という事を考えた。

 

自分と似ている彼女と一緒に住む事。

全く新しい自分の周りの環境。

何かが変われるかもしれないと思ったのだ。

 

弱っている彼女までもを、自分のために「利用」しようと考えたのだった。

変わる為に。

本当の自分に変わる為に。

 

「最低だ…俺…」

再び小さく呟き、罪悪感と自己嫌悪に陥る。

 

などと、考えていたらいつの間にか到着していた。

俺がこれから生活するかもしれない部屋。

 

この部屋に到着するまでにはかすみ荘の中を少しだけ歩く事になる。

 

やはり、外観が与えてくれた印象通りの年期の入った廊下や壁があった。

 

部屋数はそれ程多くはないようだが、どれからも生活感を感じとれた。

恐らく、あの部屋以外は満室なのだろう。

 

部屋のドアは、大きな木の板にドアノブが付いただけというなんともシンプルなデザインであった。 

装飾など無く、簡素な造りではあるが、それがまた年季の入ったアパートらしさを強めていた。

ドアの上部には小さな磨りガラスが張ってあり、そのガラスに部屋番号が書かれたプレートが付いていた。

 

どの部屋のドアも同じデザインで変わり映えのしない印象を受けたのだが、その部屋だけは明らかに異質だった。

 

他の部屋とは違い、感じ取れる「何か」。

小さなガラスには5と書かれたプレートが掛けられていた。

5号室という事を意味しているのだろうが、「何か」とはこの事ではない。

 

その部屋の前に立つと、ひんやりとした肌寒さを覚え、大きな気持ち悪さを感じる事が出来た。

その部屋が意思を持ち、来るものを拒んでいるかのような。

そして、扉の前に立つものにある確信を持たせていた。

「この部屋には何かがある」と。

 

二人が見守る中、ドアノブに手を掛けようとする。

 

このドアを開けてしまえば後戻りは出来ない。

わかっている。歩いている途中に覚悟は出来た。

一緒に住む覚悟。

あの子を利用する覚悟。


ドアノブに手が触れた瞬間、一瞬ではあるがプツリと意識が途切れた。

意識が飛んだ瞬間に誰かの記憶が頭の中へ流れ込んでくる。

 

首を絞められ、殺されかける。意識が朦朧とする中犯人の顔を見る。

女性だった。

そして、彼女は言う。

「ごめ…ね…お…さん…スグ……行……から………」

よく聞こえない。

そして彼女は包丁を自身の手首に掛け、深く刃を立てる。

途端に辺りは紅に染まり…。

 

意識が戻る。

 

…多分、ゆずちゃんの過去だ。

 

これでいよいよ後戻りは出来なくなった。

あんな過去を見せ付けられたのだ。

逃げられるわけがない。

 

一気にドアノブを回し、ドアを開く。

 

中からは真冬並に寒い風が吹き出してきた。

 

「うっ…!!」

思わずたじろぐ。

しかし、なんとか体勢を立て直し中へ足を踏み入れる。

部屋の中は暗く、あちこちの隙間からの光でなんとか視界を確保出来るくらいである。

 

気持ち悪い…。

 

部屋の前に立った時から気分が優れない。

むしろ、悪化している様に感じる。

 

具体的に言えば、息が出来ない。しにくい…とかではなく、出来ないのだ。

常に圧迫感を感じる。

時折フッと力が抜け、その隙にかろうじて呼吸が出来る…といった感じだ。

 

耳鳴りも酷く、頭痛や目眩も…。

とにかく、一刻も早くこの部屋から出たかった。

 

これらの症状は奥へ進むにつれて悪化している。

しかし、お姫様に会うにはこの蕀の道を突き進まなければならない。

童話に出てくる王子様の気分を味わいながら蕀の道をゆっくり一歩ずつ進む。

 

…いや、王子様と言うよりむしろ…。

…思い付かない。

思考もしづらくなってきている。酸欠だろうか。

 

頭がクラクラする。

だが、もう少し。あと少しだ。

 

ガタンッ!

 

足がもつれ、壁にもたれかかる。立っていられない。

 

左側には大きな(ふすま)

この中に彼女はいる。

間違いない。

何故か、部屋に入った瞬間から彼女の居場所がわかるのだ。

まあ、広い部屋ではないしある程度の予測はつくが、確実に居場所がわかる。

襖の取っ手に手を掛ける。

 

「…ッッ!!」

手を掛けると同時に、猛烈な吐気に襲われる。

 

「うっ…ぐっ…」

どうにか堪える事は出来たが、彼女と対面する前からこんな状態。 

こんな状態で彼女と会うことが出来るのかという恐怖が体を支配し始める。

 

「ハハッ…よほど彼女に嫌われてるみたいだなぁ…

待ってろよお姫様…」

独り言でなんとか意識を保つ。

いつまでもこうしているワケにはいかない。

取っ手に掛けた手を小さな気合いを入れた後、一気に引く。

 

襖が綺麗にスパーンという音と共に開かれ、5号室のドアを開けた時と同じ突風が吹き出してくるかと覚悟していたのだが、意外になんともなかった。

 

突風が吹き出してくる事も無ければ、不快感が増幅する事も無かった。

 

この部屋は居間の役割を果たすのだろう。ある程度の広さはあった。

居間と言っても、この5号室にはそれ程部屋数があるわけではない。

よって、この居間は寝室の役割も担ってもらう事となるだろう。

 

そして、居間兼寝室には大きな窓があった。

外では桜が舞っている。

そして、窓の手前。

つまり、襖を開けた俺の真向かい。に、小さな「それ」は座っていた。


ゆず…。

かつて、この部屋に母親と二人で住み、その母親に殺された幼い女の子。今はこの部屋の地縛霊…。

 

俺は今、この子と向き合っている。

もう一度言っておくが、俺に霊感は皆無…のハズなのだが、ハッキリと見えている。もう、これでもかと言うくらいに。

 

髪は体全体を隠せる程に長く、枝毛がかなり目立つ。

おそらく白のワンピースであったろう洋服を身に纏っていた。

その服は所々黒ずみ、破れ、穴が空き…といった、いかにもイメージの中の幽霊が身に纏っていそうな服であった。

 

5~6才の女の子ではあろう事は容姿を見れば推測できたが、顔付きはとてもでは無いが、幼い女の子のモノではなかった。

 

垂れた長い髪の隙間から覗く目は、鈍く光り、大きく見開き、俺の目をジッと睨みつけていた。

だが、目に力は無く死んだような目をしていた。

 

…恐い。

確かに恐かった。だが、この子を見ていると悲しくなってもくる。 

やはり似ているのだ。過去の自分とこの子は。

同じ空気を感じる。

あの話を聞いたから…というのもあるだろうが、この子を見ていると過去の記憶が蘇ってくる。

辛くて悲しい、嫌な思い出だ…。


とりあえず何か話しかけなきゃ。

いつまでも見つめあっているわけにもいかない。

 

「こ…こんにちはっ!」

出来る限り明るく話し掛ける。

 

やはり「幽霊」という言葉が思考を鈍らせる。

この言葉は、この子を女の子としてでなく幽霊として見せてしまう。よって、何を話せば良いか全く見当がつかないのだ。

 

予想通り、挨拶はことごとく無視。

無理もない。

急に部屋に入ってきた男性に挨拶されても困る。

 

今のは失敗。


「えぇ~っと…。

げっ…元気かな?」

 

………………

 

いやいやいや。

自分で自分につっこむ。

元気も何も、この子は幽霊です。

もう亡くなってます。

今のも失敗。

今のはナシだ。今のは無い。うん。

 

「えっとー…」

「アナタは…」

言葉に詰まっていると、意外にも彼女から話し掛けてきてくれた。

外見とは裏腹に綺麗な透き通るような声。

 

「アナタはなんなんですか…?」


…何…と言われても困る。

これから一緒に住む男です。とか?

 

「もし、このへやにすむならやめておいたほうがいい」

 

「え…?どうして…?」

 

「だって、わたしがいるから」


表情をピクリとも変えずに言い放つ。

まるで人形のようだった。


…そうか。

やはりこの子は昔の俺に似ている。

ここで逃げる事は簡単に出来る。 

でも…。

 

「…そうだよ。

今日から君と一緒に住む事になったんだ」

 

「わたしのはなし、きいてた?」

 

「聞いてたよ。でも、それでもココに住むんだ」

 

「…どうして…?

どうしてそんなウソつくの?」

 

「嘘?

いや、嘘なんかじゃ…」

「ウソだッ!!」

 

言いかけた言葉が彼女の大声によって遮られる。

…驚いた。

彼女の口からこんな大声が出るとは思ってなかった。

 

「ウソだよ…そんなの…。みんなみんなウソばっかり…もうやだ…」


…やはり小さい女の子。

さっきと比べものにならない程に表情が変わる。

感情でモノを言う所も小さな子供と変わらない。

 

…俺はこんな小さな子を利用しようとしているのか…

この子とこうして向かい合う事ではっきりと罪悪感を感じる。

だからといって、逃げだすつもりはない。

 

「違う…。嘘なんかじゃ…」

「もうやめてぇっ!!!」


「うっ…ぐっ…!!」

また俺の言葉が彼女の大声に遮られる。

だが、さっきと何かが違う…。

声が…出ない。

体が動かないどころか、指の一本も動かせない。

なんとかまばたきをするのがやっとだ。

体が何かに締め付けられる感覚。 

 

噂に聞く、金縛りというヤツか…?

有り得な…いや、目の前には幽霊。この時点で常識外れだ。

それに、この状況は金縛り以外に説明がつかない。

 

…ホント、何でもありだな…。


そして、彼女が口を開く。


「もうやめてよ…

どうして?どうしてそんなウソをつくの?

もういやなの!

ウソをつかれるのは!

だまされるのは!」

 

……!

何だアレ…?

彼女の体の周りに光を確認する事が出来た。

激昂する彼女に呼応するように激しく光る。

何の光だ…?

…鎖…か?アレは。

それに気付いた瞬間、彼女の体中に鎖が巻き付いているのがわかった。

何本もの鎖が彼女の体を締め付けていた。

 

「嘘なんかじゃない!」と叫びたかった。

だが、声が出ない。

 

「わたしはもうラクになりたいのに!

なのに、どうしてみんなでわたしをいじめるの?

どうしてみんなでだますの!?

もうほうっておいてよぉぉっ!」

 

あぁ!くそっ!

声が出なきゃ、どうしようもない…!!

 

彼女の顔はいつの間にか涙でぐしょぐしょに崩れていた。

それでも彼女は叫ぶ。

自分の感情を叫び続ける。

 

駄目だ…。

彼女にこんな顔をさせちゃ…。

そんな顔をさせる為にここに来たんじゃない…!

 

「いままでだって、みんなみんなわたしにウソばかり…!!

すぐにいなくなる!」


伝えなきゃ……!

 

「アナタもわたしにウソをつくんでしょ?

いなくなるんでしょ!?

だったら、もうやめてよ!

もう、いじめないでよぉっ!!」

 

…違う!!


俺は…!


俺は!!

 

…駄目だ。声が出ない。

 

彼女の辛さや痛みは痛い程にわかるのに。

自惚れかもしれないけど、彼女の心の傷がわかる俺になら彼女を救えるかもしれない。

俺にしか救えないかもしれない。

 

所詮、俺はこの子を利用するためにこうしてるだけなのかもしれない。

それは紛れもなく事実だ。

でも…。彼女のこの顔は嫌いだ。

まるで昔の自分のようなこんな顔は。

 

…救いたい。


たとえ、不純な動機だったとしても…。

今、泣きじゃくる彼女を止められるのは俺だけなんだ。

 

 

頼む。


出てくれ。


出ろ………


出ろ…!

 

「いやぁぁっ!!!」

 

俺は……


俺は…!!

 



深く息を吸い込む。

全力で、叫ぶように。





俺は…!!






「俺は…っ!!!






ちがうっ!!!」

 

…出た。

 

部屋中に響きわたる叫び声。

声が出たと同時に体から力が抜ける。

そして前のめりに豪快に倒れこむ。

 

「うぐっ…!!」


思いきり腹を打った。

目の前には彼女の髪が風になびいていた。

顔を上げると、そこには彼女の顔。

涙や鼻水でぐしょぐしょになり、真っ赤に染まった頬や鼻。

そして、赤く腫れ上がった目。

 

さっきの彼女との距離とは比べ物にならない程に近いお互いの顔。 

意外とまつげが長く、綺麗な目をしている事に気付く。

真ん丸に開いた目は、彼女の驚きを表していた。

金縛りを自力で解くなど、まったくの予想外だったのだろう。

自分でも驚いているくらいなのだから…。

 

彼女の頬にそっと手を添える。

そして、優しい声色で話し掛ける。


「俺は、君に嘘なんてついてない。裏切ったりなんかしないよ」

 

彼女はハッと気が付いたように我を取り戻し、言い返す。


「ウソ!!みんな、そんなこといったもん!

でも、みんなわたしのまえからいなくなった…!

アナタだって、きっと…!」

彼女の言葉を遮るように、その小さな体をそっと腕の中へと抱き寄せた。

 

「……ッ!」


彼女は驚きに体を支配され、硬直する。

そんな彼女の反応に構わず、俺はギュッと抱きしめる力を強める。

こういう状況では言葉よりも、この方が気持ちが伝わりやすい。

その事はよく知っていたから。

 

彼女は黙り続ける。

そんな彼女にもう一度優しく語りかける。


「大丈夫。大丈夫だから…。

絶対に嘘なんかじゃないから。

俺が…君の側にいるから…」


まるで、プロポーズだ。

自分でもこっぱずかしい事を言っている事は充分にわかっていた。 

しかし、言葉を選んでいる余裕などなかったのだ。

 

「…ホントに…?

しんじても…いいの…?」

 

「あぁ、俺が一緒にいるよ」


また、一層強く抱き締める。

その瞬間、何かが舞っているのを確認した。

まるで、さっき見た桜吹雪のようであった。

しかし、窓は開いていない。

よく見ると、ゆずちゃんの体を締め付けていた鎖の一本が砕け散っている。

そのカケラがまるで桜吹雪のように見えたのだ。

 

…綺麗だった。

カケラが放つ光は、暗い部屋を明るく照らす。

 

そして、ゆずちゃんの顔をより一層ハッキリと見る事が出来た。

そこにあった顔は、普通の…本当に極々普通の女の子だった。

彼女の大きな瞳が、宙を舞うカケラの光に反射し、キラキラと光る。


「ホントに…ホント…?」

 

彼女は何度も確認する。

今まで何度も裏切られた彼女にとっては当然の事なのかもしれない。

なかなか信じられない気持ちは俺にだってわかる。

 

「うん。ホントだよ。

それに、俺はシャレにならない嘘はつかない主義なんだよね」


ニッコリと笑ってみせる。

 

「まあ、正直言うと…他に住む所も無いし…ね」


そして苦笑い。

自分でも、よくこれだけコロコロと表情が変わるな。とぼんやり考える。

いや、これが自然なのだ。

彼女が、こうやって表情を柔軟に変えてくれる日は来るのだろうか。


俺の胸の中で号泣する彼女に目線を落とす。

…よほど辛かったのだろう。彼女の涙やら鼻水やらで服がぐしょぐしょだ。 

 

こんなに弱っている彼女を利用するためにここにいるという事実。

この部屋に立ち入る事を決意したきっかけ。


だが、あまりにも昔の自分に似ている彼女の姿は、別の考えも揺るぎない決意へと変える。

小さな女の子。

彼女の、歳相応の様々な表情を見てみたいと考えるようになった。


いや、取り戻さなければいけないのだ。

本来の彼女の姿を。

似ているからこそ、俺にしかわからない事があるし、俺にしか出来ない事もある。

 

なら、俺にしか出来ない事をしなければならない。

それで彼女を救えるなら…。

 

俺は彼女を利用する。

だからこそ俺は彼女と真剣に向き合っていかなければならないのだ。

…何にしても、あまりにも自分勝手な考え方だな。と思う。

 

経済力も無い俺が小さな女の子と一緒に生活するなんて、馬鹿な事だとはわかっている。

親友に裏切られ、それでも断らない俺は馬鹿だという事もわかっている。

 

確かに馬鹿だ。


それは否定できない。

 

だけど、この子の苦しみは俺にしかわからないから…。

彼女を救えるのは…俺だけだから。

そんな風に自分に言い聞かせる。

 

「…ねぇ、君の名前を教えて欲しいな」


名前はとっくに知っている。

だが、彼女の口からはまだ聞いていない。

 

「…ゆっ…ゆず…っ…」


ヒックヒックと号泣の余韻を残しながら答える。


「ゆず…ちゃんか。ん。可愛いらしい名前だね」


ニッコリと笑って頭を撫で、言葉を続ける。


「俺も自己紹介まだだったね。風見奨悟です」

 

「風見…さん?」

 

「そ。風見。

よろしくね。ゆずちゃん」

 

「…うん…。よろしく…」


恥ずかしそうに、彼女は照れながら応える。

 

 

 

そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼女の顔に笑みが現れる。

 

目を細め、少し歯を覗かせながらもまだ不自然な笑顔。

しかし、彼女の嬉しさはしっかりと伝わってきた。


それはとても可愛いらしい笑顔だった。

 

あぁ、そうなんだ。

俺はこの笑顔を自然な笑みにしなければならないのだ。

 

正直言うと、なぜこの話を引き受ける決意をしたのか。

それについて全ての動機を正確に答える事は難しい。


けど、それでも一つだけハッキリと言える事はある。

 

俺は、この笑顔を。


彼女の笑顔をもっとたくさん見てみたい。


それだけはハッキリと言える。

 

不純な動機で彼女との同棲を決意した。

だが、今は違う。

昔の自分の姿とダブる彼女を救いたいという気持ちが大きくなっていくのを感じる。

 



 

 

変わっていこう。

 

 

 

 

お互いが望む姿へ。

 

 

きっと大丈夫。


きっと変われる。

 

 

ゆっくり少しずつ。



だけど、確実に。





 

 

 

 

 

一本の、大きなしだれ桜が有名で


最寄駅から徒歩10分。


家賃は安く、日差しが眩しい南向き。


年季の入った外観が目を惹く、昔ながらの共同アパート。


「かすみ荘」






ここから普通の学生の俺と、



幽霊の君との奇妙な共同生活が




始まる。

 

 

 

 

【1章】おわり



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