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プロローグ

 

 

 

わたしはどうしてここにいるんだろう。

どうしてまだここにいなくちゃいけないんだろう。

 

もう、らくになりたい。

 

ここにいてもしかたないのに。

ここにいてもどうしようもないのに。

 

なのに、まだいなくちゃいけないの?

 

 

ねぇ、かみさま。

 

 

どうしてわたしにいじわるばかりするの?

 

もういいでしょう?


わたしはなにをすればいい?

わたしはどうすればいいの?

 

 

 

かなうのならば。

 

 

 

だれか、わたしをたすけて。

だれか、わたしをつれだして。


かなうはずもないねがい。

なんどくりかえしねがっただろう。


うごかないからだでねがいつづける。

かわらないにちじょうのなかでのぞみつづける。



ずっとおなじ。

 

ずっと

 

ずっと








季節は春。

空は青く晴れ渡り、雲一つ無い。まさに快晴と呼ぶにふさわしい天気である。


空までもが今日から始まる新生活を祝福してくれている気さえしてくる。

 

風見奨悟。

ドコにでもいる20才の大学生だ。そして、人よりお人好し。

 

さらに、今年から大学デビューを控えた、希望に満ち溢れた好青年。

そう、好青年だ。

 

………………。

 

今年から大学生。つまりは、浪人生だったのだ。今回ようやく合格し、晴れて大学生デビューとなる。

 

ただ、一人暮らしというものは始める時に多くの費用が必要となる。

中学の頃から密かに憧れだった一人暮らしの夢も実現するのが危なかった。

 

母には猛反対されたが、この夢は何とか実現出来る事となった。

夢の実現まで至る事が出来たのは政信さんのおかげである。

 

政信さんとは父の事。…が、実の父ではない。

実の父は…。

 

…思い出したくもない。

それ程にいい思い出が無いのだ。


この政信さんは俺が中二の時に母の再婚相手。

 

以前から少しは面識はあったのだが、いきなり家に来た男性に「今日から君の父だよ」と言われても「父さん」などと呼ぶのは難しかった。

 

そんな訳で。今でも呼び名は「政信さん」である。

 

とは言っても嫌いというワケではなく、むしろ感謝しているくらいで、「父」と呼ばない俺に気を使っているというのもあるのだろうが、昔から政信さんは俺にとても良くしてくれた。

 

一般的には少し甘い。とも言えるかもしれないが、叱る時にはキチンと叱ってくれる。

 

父親の鏡と言えるのではないか、と言うほど政信さんの事は信頼している。

 

 

 

…父親の鏡はちょっと大袈裟だった。

 

 

とにもかくにも、政信さんの口添えのおかげで昔からの夢は実現に至った。

 

「次に会うときはキチンとお礼を言わなきゃな…」

 

ぼそりと呟き、電車の心地よい揺れに身を委ねながら窓の外に目を向ける。


相変わらず空は青い。

 

ぼけっとしばらく眺めていると、アナウンスが聞こえてきた。

 

「笠乃宮~…笠乃宮~…」

 

憧れの一人暮らしが始まる舞台だ。

 

窓の外には海が広がっていた。

 

次々と見慣れない街並みが流れて行く。

洋風な街並みがあれば、古風な街並みが連なる通りもある。

 

見慣れない街…。

 

今日からここに住むと思えば、自然と鼓動が早くなる。

 

新しい街。

知らない人達。

 

新しい生活。

知らない世界。

 

期待するなと言う方がムリだ。

 

これから、どんな生活が待っているのだろう。

 

期待は膨らむ。

 

その時、列車が止まりドアが開いた。

 

暖かな風が舞い込む。

しかし、まだ肌寒さを覚える。

 

荷物を持ち、ドアの前に立つ。

 

小さな深呼吸。

 

「よしっ!」

 

意気込んで、一歩踏み出す。

 

いよいよ始まるのだ。あれだけ憧れた新生活。

 

さぁ、何が待っているのだろう。 

期待と不安に胸を踊らせ、俺はもう一歩を踏み出した。








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