山賊なべ
〜山賊の会話〜
「親分、獲物が来ましたぜ」
ようやくか…この峠に張ってから半月、かかった獲物は僅か馬車2両。
なんとか狩りをして凌いでいるが。
「おい、詳しく報告しろと言っとるだろう?」
「うぃっす。えーと、大物ですぜ。街の豪商のアクレサンドル家の紋がついてます。護衛はなし」
「なんだと?本物か?見間違いじゃねえのか?」
「ほ、本物です」
アクレサンドル家だと?しかも護衛なし…
襲ってくれと言ってるようなもんだ。
「野郎ども、出撃するぞ!準備しろ!」
魔法が使えても、あそこの家は風魔法。
5つの魔法の中で一番攻撃力は低い。
「やい、そこの馬車止まれ!」
乗ってるのは…中は見えねえが、御者はジジイ一人。
中もそんなに人は乗れない大きさだ。
たとえ魔法が上手くても、重大な被害はないだろう。
「お前ら、止まったら突っ込め」
「「「オオオオオォォォォォォ!!!」」」
馬車は急に止まり、御者は中に入っていった。
まあ主人でも乗ってるんだろう。
金目のものもあると読んだ。
「おい、あれは金を積んでるぞ。いい仕事するじゃねえか」
ガハハと笑いながら、発見した部下を褒めておく。
そんな細かいことも、山賊を率いるのには大切なことだ。
「おい、そういやこのあいだの変な魔法使いが落としていったナイフがあっただろ?性別が変わるやつ。あれを持ってこい」
この間年寄りな魔法使いを捕まえたが、逃げられた悪夢を思い出す。
魔法使いが持っていたナイフに切られると、擦り傷でも性別が変わってしまう危ねえやつだった。
なんとかナイフを奪えたが、転移されてしまったからな。
しかし、下っ端が女になった時はもう…
覚めやらぬ興奮を思い出し、細く笑む。
〜主人公に戻る〜
「山賊が出ましたっ‼︎」
慌てて執事さんが駆け込んできた。
不安そうに俺を見上げるシキと、逆に不敵な笑みを浮かべるネシア。
さて、ネシアにヤッてもらうしかないかな。
俺は魔法覚えたてだし。
シキも…無理だろう。震えてる。
「どうするんだ?」
「ウチはユーマに任せる」
え?ネシアさん、なにを?
「ネシアがいってくれるんじゃ?」
「ウチが?ユーマが魔法でドーンてするかと思っとったわ」
俺が…ですか。
初体験だな。
いや…そんな場合じゃねえ。
さっきみたいなイメージでいけるのか?
果たして人相手に放てるのか?
だが…
「「「オオオオオォォォォォォ!」」」
「山賊が、山賊が来ましたァァァァァァッツ‼︎」
もう引くに引けない。
やるかやられるが…だが。
「今更また死ぬ気はねえよ」
と呟き、立ち上がる。
「しゃーねえな。ネシア、シキを守っとけ。殲滅してやる」
虚勢でも張らないと、恐怖に押しつぶされそうになる。
信じるべきは、さっきちょっと使えた火魔法。
魔力はステータスで多いことは確認済みだ。
よし、行こう。
いや、ほんとにいいのか?
「カッー」
「カカカカッー」
この音は‼︎弓か。
ハリネズミにされてたまるかってんだ。
ここで出なきゃ九州男児は名乗れねえぜ。
…今は女?いいんだよ細かいことは。
「よっと。」
馬車の前から飛び降りる。
馬は…もうダメそうなくらい、矢が刺さってる。
めのまえには山賊が見渡す限り…20人くらい。
「やっと出てきたか。やる気になったか。ようやく面白くなってきたぜ、お前ら!行くぞぉぉお!」
「「「「オオオオオォォォォォォ!」」」」
出るなり突っ込んできた山賊が約十名。
しっかりした鎧を着て、剣を持っている。
なーんか思ってたのと違う。
が、俺に剣を向けたんだ。
正当防衛という正義があるから、俺は躊躇しない。
「フレイムウォール」
ポツリと、ありがちな呪文を言ってみる。
「うわぁぁぁぁぁあ!」
「ひぃぃぃい熱いいいい」
おー、目論見通り発動してくれたか。馬車を囲むように半円状に発動する想像で、呟いたんだがな。
見事に、予想通りに突っ込んできてくれた。
残りは約十名。
どうでるか?
「ユーマ、顔が怖かよ」
「そうか?そんなかおになってるか?」
ネシアに指摘されるまで気づかなかったが、ニヤリとした笑みを浮かべてフレイムウォールを展開していたようだ。
たしかに、人を殺したことに違いはないが、魔法だからなのか現実味があまりない。
もちろん新鮮な血の臭いや肉が焼ける臭いはする。
ただ、俺自身も知らない心の奥で、あっさりと葬れたことに喜びでも感じていたのだろうか?
自分が少し怖い。
「ユーマさんっ、まだきます」
「おう。ありがとな、シキ」
「ファイアブレードッ」
指の延長に、炎の剣が出現する。
剣術だとか、戦闘術なんかは習ったことはない。
が、自然と動く…みたいなことがあってほしかった。
敵の攻撃は、あまりにも多い俺の魔力が勝手に障壁を展開しているみたいで全く当たらない。
しかし俺の攻撃も、当たらない…
敵の動きがつかめない。
剣の軌道がわからない。
焦るとさらに俺が空振る。
あれ?俺って端から見たらただのイタイ人だな。
一瞬我にかえり、そう思うともうダメだ。
恥ずかしさが…顔から火が出るくらいだ。
手からは火が出てるがな。
「ユーマさん、終わりました」
「ユーマ、終わったで」
「おう、二人ともお疲れ」
執事さんはちゃっかり山賊から防具を剥いでいる。
え?非道いって?
死者に弔いの気持ちはあったとしても…なあ。
襲ってきた奴らにはさすがに同情できねえよ。
殺されれば終わり。
死にたくなければ戦うしかない。
戦闘がおわり、死体を協力して道端に寄せていると、色々なことがスッキリしてきた。
戦うこと、殺すことを恐れていては、俺が死ぬ。
死んだら当然リセットなんてない。
そして、人はあっけなく死ぬ。
今まで悩んでいたことが、とても小さいことに感じる。
「ユーマさん、変わりました?」
「雰囲気がなんか違うなあ」
「今ので一皮むけたみたいだ。色々今までの俺が甘かったってことだ」
「「一皮…むけた…ゴクリ」」
シキ?ネシア?なんだその目は。
下ネタに走ったわけじゃねえんだぞ?
慣用表現だからな?誤解するなよ?
くっ、あからさまに目を逸らされた。
「ま、ケガなくてよかったよ」
「ユーマとやら、我らが山賊の仇っ!」
なっ…背後から走り寄ってきたのは、ナイフを構えた黒づくめの男。
「えっ…なにを…」
「ユーマぁぁぁぁぁ」
チィッ…
ネシアが咄嗟に突き飛ばしてくれたおかげで、腕を少しかするだけで済んだ。
「ネシア、たすかっ…ガハッ」
「ユーマさんっ!ユーマさ……」
「ユーマ、ユーマぁぁぁぁぁ…」
次第に小さくなる叫び声を聞きながら、
ふっと身体の力が抜けていくのがわかる。
–––––––––––目の前が真っ暗になった。
学校が始まりまして…
不定期ながら、週に2本を目標にやってますがずれ込む可能性も考えられます。
その辺はどうぞ勘弁してやってくださいお願いします。
さて、今回は初の戦闘シーンを描いてみようかと思ったんですがね。
気づけば全然バトってない。
次話もまた、よろしくお願いします