3.トム爺さんは語るⅢ
3.トム爺さんは語るⅢ
その日も、儂はサラに連れられ森の中を歩いていた。
「ねぇ、ここの人達は何の仕事をしているの?」
「野菜を育てたり、物を作ったりしている。」
「でもそれで、お金を稼いで要るわけじゃないわよね?」
「お金を稼ぐのは生きていく為だから、誰もしたがらない。」
その時のサラは信じられないという顔をしていたように思う。儂らにとっては、仕事の意味がなかった。何せ、食べる物も着る物も生活に必要な物は全て支給されていた。
「つまらない。本当につまらないわ。そもそも『天死』ってなんなの?私はもっと楽しく生きていたい。それが罪なんて、理解不能だわ。」
「こちらからすれば、君の方が理解不能だ。皆、死ぬ為に生まれてきたんだ。」
「バッカみたい!生まれてきたのが、死ぬ為だっていうの?なら、最初から生まれて来なければいいじゃない!」
サラはそう叫ぶとどんどん森の奥へ入って行った。そのまま放っても置けず、儂も後を追い掛けた。
ーその時、サラは足を滑らせ川に落ちそうになった。咄嗟に儂はサラの腕を掴み、気付けば儂の方が川に落ちておった。意外に流れが早く、儂はこのまま死ねると思うた。川で溺れるのは、苦しかった。でも、これが待ち望んだ死なのじゃ。それにサラが助けられたのは良かったと思ったのじゃ。
ーーー
目を開けた時、サラの涙が見えた。
「ー・・・死んでない・・・のか・・・?」
「ふざけないでよ!生きてるに決まってるでしょ!あのまま死ぬなんて許さない。」
ぼんやりした意識で、サラを見つめた。何故、怒っておるのかが、あの頃の儂には分からなかった。若くして死ぬ事は喜ばしいことなのに。
「生きててくれて・・・良かった。助けられて良かった。」
サラは泣いていた。全身びしょ濡れでもあった。サラが儂を助けたのは間違いなさそうだった。
「何で・・・助けたりした?ここでは死ぬ事が良いことなんだ。」
その瞬間ーバッシン!サラに思いきり頬を殴られておった。
「なんなのよ!私が貴女を助けたのは嫌がらせだとでも思ってるの!?じゃあ、貴女が私を助けたのも私が嫌いだからなの?」
その時、儂は気付いたのじゃ。
「ー違う。サラには生きてて欲しいと思った。死んで欲しくないと思った。」
「私も同じよ、トム。人が死ぬということは、悲しいことなのよ。だから、貴女が生きててくれて私は嬉しいわ。」
この時、笑ったサラの顔があまりにも眩しかったのを今でも覚えておる。
この日から、儂は死ぬ事を辞めて生きることにした。死んだら、もうサラの笑顔が見れない、それが嫌だったというのが一番の理由じゃな。そう、儂はサラに恋をしてしまった。それから、儂はサラと一緒に村を出て旅に出たのじゃ。