1.トム爺さんは語るⅠ
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この国では、死ぬ為に生きることが全てだ。
ここでは短命な程喜ばれた。神に祝福された愛されし者から死んで逝くのだ、と人々は信じていた。
だから、妹が死んだ時も、誰も悲しまなかった。
長命な者は嘲られ、迫害を受けた。また、九死に一生を得た者は、神に見捨てられた呪われし者だと判断された。
この国の法律はシンプルだ。
『自殺は禁忌』『人殺しは処刑』
この二つ以外は存在しない。
これを破った場合、死後も永久的に拷問を受け続けるのだ。
国の名前は『メメント・モリ』。『天死』と呼ばれる存在が人間を管理している。
1.トム爺さんは語るⅠ
不思議な子供じゃった。簡単に考えれば、周囲から浮いていただけなのかもしれんがのう。とにかくここは、長生きを疎まれた者が収容される場所であり、稀に年若い者がくることもあったが、決して子供がくるような場所ではなかった。
儂は、この施設で一番の古株で年寄りでもあった。ここでの生活は、世間で噂されているよりも、ずっと穏やかじゃった。時折、仕事を頼まれることはあったが、それ以外は自由に過ごせていた。しかし儂のような者は少数で、ほとんどの者は歳を重ねるごとに精神を病んでいった。
「トム爺さん。生きてることは悪いことなの?」
この国では死ぬことが全てだった。だが、儂は思うのだ。
「坊主、儂が生きていては迷惑かのう?」
「僕はトム爺さんが生きていても困らないよ。迷惑だとは思わない。」
本来この子供の問い掛けは、ここに暮らす国民全てが眉をひそめる内容であろう。何せ、儂のような年寄りは罪人だと思われている。短命こそが讃えられ、死こそが幸福なのじゃと。しかしながら、儂も昔はそう信じていた。一日でも早く死ぬことに憧れていた。どうしたら、死がお迎えに来てくれるのか、そればかりを考えておった。そんな時に儂は、ある出逢いをした。それは儂の考え方・信仰を180度変えるには十分な出来事であった。