世界の否定者
あたしが知っているはずのその景色は、とても退廃的どころか、廃れきっていた。まるで終末を迎えたかのように、人も居らず、辛うじてやせ細った草木が残っているだけで、殆ど荒野に近い状態、否、荒野そのものだった。荒廃したその景色の中でただ一人、呆然と立ち尽くしていたあたしは、膝から崩れ落ちた。もう、ここには何もない。あたしの居場所は、これで完璧に無くなった。
「ばかみたい。なんであたし、ここまで戦ってきたの。……どうすればいいの」
冷たい雫が頬を伝う。ぽたり、ぽたりと水滴が地面に落ちてゆく。どうしようもないくらいの孤独と絶望が、あたしを襲う。ここがこんなことになった原因を、あたしは知りたい。その元凶さえわかれば、あたしはそいつを絶対に許すことはないだろう。そいつの存在を否定してやってもいい。むしろしたいくらいだ。でも今のあたしが一番したいのは、この現実を否定すること。
だって有り得るはずがないんだ。生まれた時から一緒だった彼女が消えたなんて。ずっと昔から仲良しだったあの娘が消えたなんて、そんなこと、有り得ない、信じたくない。
でも現実はとても非情で、あたしに惨い事実を突きつける。
「ねえ、ヒーローなんて、英雄なんて、やめたいよ……」
弱虫のあたしがヒーローだなんて。大好きで、とても尊敬していたお母さんの背中を見て、ヒーローに、英雄になろうって決めたのに。こんなんじゃ全然だめだよ。あたし、もうやだよ……。
お母さんにもらったこの真っ赤なスカーフももはや布切れ同然で、自慢だった真っ赤なエンジニアブーツも汚れてて、風に靡く赤いハチマキもぼろぼろになって、あたしの右目には大きな傷も出来て。
おまけにあたしの心までずたぼろ。もうどうしようもないんだよ。
――何もかも、あたしの中で崩れ去る。
「いっそのこと、もうこの世界全てを否定してしまおうか?」
廃れた何も無い土地で、ただ一人あたしはその地面を踏みしめて。先程までの涙はすっかり渇いて、ずたぼろだったあたしの心は切り替わって。あたしは踵を返す。
――その瞬間、一人の英雄が、どん底まで堕ちた。