4話:ダイエット、最大の敵!
「うう……目が痛い……」
仕事中、パソコンに向かって作業。あたしの仕事はほとんど事務仕事で、毎日ほとんどパソコンに向かって作業してる。
……仕事中にもっと動き回ることができたらなあ。仕事しながらやせられればいいのに。
もうすぐ17時を回り、勤務時間はそろそろ終わる。今日は会社が決めたノー残業デイだから、どれだけ仕事がたまってても強制的に帰らされる日だ。
そんなことはどうでもいいけど……。
「はぁあ……」
おなかすいた。腹八分目がいいと思って、昼ごはん少な目にしたせいで、ものすごくおなかすいた。
うぅん、少ない食事で済む人がうらやましい。
「おーい、鈴木みさき。仕事中にそんな大きなため息をつかない!」
「あ、山崎さん、すみません……」
はぁ……山崎さんのおっきな胸が、大福に見えてくる……食べちゃいたい。
山崎信子さん、30代半ばのあたしの上司。いつも一緒に飲みに行くのに、まったく太る形跡がない。
あたしより飲んであたしより食べているはずなのに、なんで彼女は太らず、あたしはぷくぷくと太っていくんだろ?
「んー、なにかストレスでも溜まってるの? それじゃ、この後、愚痴きいたげるよ? いつものところで」
そう言いながら、くいっとビールを飲むジェスチャーをした。
ううん、本音は行きたいんだけど、行ったらきっと太るよねえ。
「えっと、今日はちょっと……」
「ん? なに? 今日はデートとか?」
「いえ、そういう訳じゃないんですけどお」
だって彼氏いないし。別に用事はあるわけじゃないけど、ダイエットのために行きませんなんて断ったら、感じ悪いかなあ。
「なんだ。用事ないんだったらいいじゃん。もうすぐ仕事終わるしな。いこいこ」
「あ、はい。わかりました」
……あたし、意志が弱い。
『今日も1日お疲れ様! かんぱーい』
ごくっごくっ……はぁあああ。生き返るう。この1杯の為にあたしは生きているって思う。
「で、鈴木はさっきはどうしたの? 突然ため息なんかついちゃって」
「いえいえ、なんでもないんですよ? 別に何もないです」
うん、この1杯を飲んだ瞬間、嫌なこと、ダイエットとかダイエットとかダイエットとか、なんて全部吹き飛んじゃった。
「いやいやあ、絶対に何かあるでしょ? こういう時に言わないと、あとあと後悔するもんだよ?」
「えっと、なんか山崎さんと飲んでるとどうでもよくなってくるって言うか、それだけで気が晴れるって言うかあ。そんな感じなんですよね」
というか、おなかがすいてため息が出たなんて、ちょっと恥ずかしくて言えない。
「ふーん、まあいいけど。あ、ビールおかわりー」
相変わらず、山崎さんは酒豪だ。なぜそれだけ飲めるんだろう?
そしてなんでそんなに飲んでるのに、全く太らないんだろう? ぷにぷにした自分のおなかを触り、気づかれないようこそっとため息をつく。
「ほらー、鈴木、今もため息ついた。何か隠し事してるだろー?」
ため息がばれた。ど、どうしよお? ど、どうやってごまかそう?
「えっ、えっと、山崎さんってスタイルよくってうらやましいなあって思って」
「ん? そう? そんなに気にしたことないけど」
気にしなくってその体型が維持できるなんて、山崎さん素晴らしすぎます。
「スタイル維持に何か、気を使ってることってあります?」
「んー、特にないかなあ。飲んで、食べて、寝る。それくらいしかしてないよ? あ、あとは土・日にテニスしてるくらい」
そ、それだあ! きっとそのテニスですっごく走り回ってるんだあ。それでその体型を維持してるんだあ。
「土曜日午前中にテニスやった後、真昼間っから飲む、ビールがまた最高なんだよねー。あ、鈴木も来るか?」
「え、え!? あたしですか!? い、いえ! 結構です!」
土曜日までお酒飲んでたら、ダイエットどころじゃなくなっちゃう!
けど、そうすると山崎さんって、あたしとお酒飲んでる以外にも、さらにお酒飲んでるってことなんだよね。
……その酒はいったいどこに行くんだろう?
ごくごくと最初の一杯を飲みきり、その後、あたしも次の一杯を頼んだ。
「うん、今日も刺身がうまい! かつお、さいこーだね!」
「そうですねー。カツオおいしいです」
けど、やっぱりこれだけじゃ足りないかなあ。
ついでに、から揚げと枝豆も頼んじゃお。
「すみませーん。から揚げと枝豆くださーい」
「あ、自分の好きなもんばっかり頼んで! すみませーん、焼きそば1つー。大盛りでー!」
「あいよー」
もう、ほぼ1年間ずっと通い詰めてるから、ここの店員さんとは完全に顔なじみだ。
時々サービスで新商品や、たまたま入荷した魚の刺身とかをくれたりする。それがまたおいしいんだよねえ。全然箸が止まらなくなっちゃう。
ごくっと2杯目のビールを飲みきった。ううん、ダイエット考えたら、今日はもうこれぐらいにして、あとはウーロン茶みたいなソフトドリンクにした方がいいんだろうけど……ちらりと山崎さんを見たら、3杯目はキープしていた焼酎を飲んでいる。おいしそうに飲んでいる様子を見ていたら、なんだかあたしも飲みたくなってきた。
うん、まあいっか。ダイエットはまた明日から考えよう。
「すみませーん! こっちにもコップ1つー。お茶わりでー」
ま、お茶わりだしいいよね。
翌日の朝。
「……頭痛い……」
……昨夜は飲みすぎたみたい。途中から何を話してたのか全く覚えてない。えっと、ビール2杯飲んで、その後焼酎のお茶わりを2杯くらい飲んで……その後の記憶がすっぽり抜け落ちてる。
家に帰ってパジャマに着替えて寝てるってことは、問題なく帰れたんだろうとは思うけど……全然覚えてない。
「あっ、ひとまず体重測っとかないと」
これでもダイエット中なんだし。今の自分の体重はきちんと把握しておかないとね。
まだお酒が少し残ったままの状態で、ふらふらと体重計のあるところまで歩いていき、ちょこんと載った。
「……えっと、なになに……ななじゅう……」
えっと、見間違いかなあ……なんだかさっき、4とか5とか、そんな数字が見えたような気が……。
「えっと、もう一度、しっかりと見て……ななじゅううう!?」
見間違いに決まってるよお! 『75』なんて数字! そ、そうだ! パジャマがきっと重いんだ!
慌ててパジャマを脱いで、下着姿になって体重計に乗る。
……それでも、さっきよりちょっとは軽くなってるけど、それでも『75』という数字が変わらない。
「どどど、どうしよお!?」
このままじゃ、あたしだめになっちゃう! が、がんばってやせないとお!
がんばれ、あたし! 燃えろ、脂肪! そう、心の中で思いっきり叫んだ。
お酒を飲んでたら、やせれないですね。
気づかずにパクパク食べてますし。