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11-3


 その日の午後は、アルマン王子の乗馬のお誘いを受けて、真紀とタクと三人で出かけた。向かう途中、真紀がルイスの許可をとりたいと言うので、宮殿に立ち寄る。

 天都の王城はものすごく広くて、お城の中に宮殿や神殿がある。

 表御殿とも呼ばれる宮殿は上から見ると下膨れた十字架の形をしていて、右側の腕がわたしたちのいる客室があるところ。左腕がアルマン王子などのいる王族のいる場所。頭側に王様の王妃様たちと王様の部屋があって、足元が会見や会議なんかを行う政治の表舞台だ。ルイスはここにいる。

 白い魔法士の制服を着て短いマントを羽織るルイスは、金髪だからすぐに見分けがついた。同じ白い服の部下みたいな人と、青い服の魔法士のレスと一緒に通路を歩いている。

「ルイス!」

 名前を呼んで、手を振りながら真紀が駆け出す。気付いたルイスが苦笑して立ち止まった。苦笑といっても、仕方ないなっていうお父さんのような微笑みだ。

 部下の人はどうやら真紀の姿を見て驚いているようで、目を真ん丸にしている。

 こちらの女の人は滅多にズボンを履かないんだって。ラクエルもシエナも、真紀がルイスのお下がりを着ているのを見て驚いていた。

――似合ってるからいいと思うんだけどな。

 真紀は「ルイスはお尻が小さくて足が長すぎるんだよ!」とぷりぷり文句を言いながら、ベルトや裾上げをしていたけど、ちょっとタイトめのパンツにシンプルなシャツを着てブーツを履くと、すごく格好いい。

 ドレスの時も思ったけど、真紀は身長があって体形も結構女らしいから、男の子っぽくならずにきれいなお姉さんって感じになるんだ。本人はあまり気付いていないけど。

――メイクとかもすればいいのに。

 コスメも集めていたわたしには、真紀が化粧水もつけてないことが一番の驚きだ。肌、あんなにつるつるの艶々だから、いらないといえばそうなんだけど。乾燥肌で手放せない身としては羨ましいの一言だ。

 鞄を失くしてしまったから、話ができるようになって早速シエナとラクエルに相談して、こっちの化粧水を分けてもらっているくらいなのに。

 小鹿のように飛び跳ねてルイスの元に辿り着いた真紀は、習いたてのマフォーランド語でたどたどしく話しかけた。

「えーと、ミ イリール アル シェーバロ(あたし、馬乗りいってくる)」

『ああ、聞いているよ』

 ルイスは真紀の肩に手を置いて、送心術で何か話しているみたいだった。真紀はそんなルイスをちょっと小首を傾げてしばらく見つめ、ちょいちょいと手招いた。ルイスが長身を屈める。

 と何を思ったか、真紀は突然ルイスの顔に両手を当てると、そのまま指でぐにゅんと摘みあげた。

「リーディ(笑って)!」

 わたしは目が点になった。というか、見ていた人全員そうだったと思う。ルイスなんて完全に固まってる。

 そんな状況に気付いていないのか、真紀は明るくまたねと手を振って、こちらに駆け戻ってきた。

「ごめんお待たせー」

『……真紀ちゃん、今のなんだったの?』

『今のって?』

『ルイスのほっぺた引っ張ってたでしょ?』

 真紀は、ちょっと照れたような顔で言い訳した。

『だってルイス、他の人と話してる時すんごい眉間に皺寄せて恐い顔なんだよね。ちょっとは笑顔になったほうがいいかなーって思って』

 笑顔になったのは、本人じゃなくて周りだと思うよ?

『え、なんかあたし変だった?』

 変だと思ってないこの人スゴイ。わたしは笑った。タクも笑ってる。

『ううん。もう、真紀ちゃんはそのまんま真紀ちゃんでいい』

『俺もそう思う。マキは今のマキがいいな』

――あ……。

 ちょっと、胸が痛んだ。わたしもそう言ってもらえたらいいのにな。

 喉の奥に小骨が引っかかったような鈍い痛みを抱えたまま、わたしは真紀たちとアルマン王子の待つ森へ向かった。



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