Interlude Ⅰ――男たちの会話
第三者視点です。
異界から訪れた乙女らの接客の要を務める大神官ヘクトヴィーンは、少女たちを用意の部屋へ通し、イェドの使者を残して、自ら補佐と据えた二名の魔法士を別室に招き入れた。
扉を閉めるや、魔法士団[孤月](こげつ)の士団長レスラーンが、この国には珍しい茶色の瞳を悪戯っぽく輝かせて、[双月]士団長ルイセリオに尋ねる。
「君が彼女の行動を予測していた、という話だけど……どうやったら父君が君を侮辱した話から〝ありのままで王様に会う〟なんて台詞がでてくるんだ?」
彼よりもさらに稀有な容姿をした男が、かすかに苦笑を洩らした。
「父が、私に代わって彼女を天都に連れて行くと言い出してね。それを反対した彼女が――」
『――わたしを最初に見つけた彼が直接報告すべき』
『――彼は領主の子なのだからアクィナスの代理と成り得る』
「そこから〝わたしは異界から来たというだけのただの少女だから、大袈裟にして欲しくない〟という論旨に移ったんだ」
「めちゃくちゃですね」
「支離滅裂――だが、きっとあの調子で言ったのだろう? 小気味いいね。俺は好きだな」
柔和な笑みを湛えたレスは、実はとても辛辣な精神の持ち主でもある。弓なりの三日月を模した[孤月]の印章は、月の剣とも例えられた。
基本的に、争いごとを善しとしない大神官が眉を顰める。
「しかし王に対してあの態度とは――」
「奇抜なものを好む王だ。異界の者と多少は許されよう」
「……ルイス。君は、彼女が〝自分は異界の乙女ではない〟と言い出すと予想していたな?」
「ああ。あの性格だからな」
「二人の間でどのような話し合いがなされたかは分かりませんが――印といっていたあのまじないのようなものも不明ですが――この結論で是(ぜ)とするほかありませんね」
「俺は、これが最善と思うよ」
茶色の髪の魔法士は、きっぱりと意見した。大神官の口元が微苦笑にほころぶ。
「まあ確かに、マキよりもリオコのほうが乙女としてしっくりくる気もしますが――」
「そんなことを言っているんじゃない。アルマン王子だ」
「イェドの王子が来ているのか?」
ルイスの声がわずかに高まる。
やわらかい童顔に皮肉な陰りを漂わせ、レスが首肯した。
「臣下の心情に配慮して、先の会見は王が列席を許さなかった。見物客に公平さを欠くと思ったのだろう。だが、これでアクィナス側が本物となれば、血を見るくらいでは済まされなかったぞ」
「異界の娘の破天荒な思いつきに、われわれのほうが救われていたというわけですか……。私としたことが迂闊でした。やはり王子の登城は止めるべきでしたね」
「今さらどうにもならない。それに、連れてきた娘が真の異界の乙女であろうとなかろうと、あの王子がこのままおとなしく背後に隠れているはずもないだろう?」
その場に流れる固い沈黙が、肯定の意を示す。
「ルイス、気をつけろよ」
茶色の瞳が、深い闇を秘めて蒼天の瞳を見た。
「いかに本物でなくとも……彼なら邪魔者を排除しかねない」
「――分かっている」
答える男の顔に落ちる表情を、異界の娘たちが見たらどう思ったであろう。
それほど冷ややかで容赦ない青の炎がその両眼に灯され、誰にも崩すことのできない氷の仮面が表を覆い尽くしていた。
ヘクターさんは、意外とフツーの常識人です。