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真紀は、わたしと同じ高2っていうのが嘘みたいなほど、堂々と王様と会話していた。
顔は赤くなっていたし、わたしの手を握る手の平は汗ばんで時々ぎゅって力が入ったけど、それでも信じられないくらい自信に満ちていた。足はがくがくだったらしいけど。
『二人で行くだと? そんな話は聞いたことがない』
『お聞きになったというのは予言ですか? それとも、百五十年前のほとんど残っていない記録のことですか?』
百五十年前の記録ってなんだろう? やっぱり指環を手にしていた真紀は、わたしよりたくさんのことを知っているみたい。
わたしは爆発しそうな心臓を必死でなだめながら、隣でそれを聞いていた。
『先程の会話で、わたしも彼女も間違いなく同じ異界から来たと確認できました。ただ、彼女のほうがふさわしいとの印が出たので、彼女を乙女と言っただけです。わたしは彼女の手助けをするために来たのだと理解しています。二人で聖地へ行くことを認めてください』
『ならぬ』
『では――水門は開かれなくてもいいのですか?』
再び、ざわりと部屋が揺れる。
王様に向かってすごく挑発的な言葉だけど、本当に大丈夫かな? なんか向こうの金髪の人、眉間にすごい皺寄ってるけど?
『王様、わたしたち二人にチャンスと時間をください。何の力もないように見えますが、この世界に招かれたのなら、そこにはきっと理由があるはずです。それを解き明かす機会を与えてくれませんか? 二人いれば、そのチャンスは二倍ある。そう考えてはもらえませんか?』
『二人とも偽者なら、なんとする?』
『この世界は乾ききって滅ぶか――いいえ、実は滅びないかもしれない。人間はしぶとい生き物です。どうやっても生き延びようとする。本当は、そこにわたしたちの手助けなんてなくても良いのかもしれません。
それでも、より多くの人が生き延びられるチャンスがあるなら、賭けてみるのが王という立場の務めではないでしょうか。たとえ失敗しても――』
真紀は一度言葉を切って、唇に不思議な微笑を浮かべた。
『異界の人間の命など、こちらの人たちの知ったことではないでしょう? この世界に最初からいるはずのないものが二人いなくなる。それだけです』
『命を懸けると申すのか』
『他に賭けるものが、わたしたちにありますか? この体ひとつで異界から来たのです。戻りたくてもその方法を知らず……この世界に保護してもらうしかないのですから』
――そうだよ。
わたしは、真紀の腕の陰でこっそりと頷いた。
選ぶようなことを言ってるけど、元からわたしたちに選択権はない。分かりきったことなのに、わざわざそれを突きつけられているようで、すごく哀しいし腹が立つ。
『与えるのは、機会と時間だけでよいのか』
『このアクィナスの魔法の指環と……あとは、旅の間わたしたちを守ってくれる信頼できる人たちを何人か。それに、この世界で基本的な生活ができる程度の自由になるお金を下さい』
はっきり言うなあ、真紀。大人っていうか、もう男前だよ。
王様も同じことを感じたのか、無表情だった顔に初めて感情の色が見えた。苦笑ってやつだ。
『ふ……威勢のいい小娘め。申すとおりにしてやろう』
『あ、ありがとうございます』
『ただし、こちらからも条件がある』
『条件?』
『期限は二週間だ。それを超えたら、二人とも覚悟するがよい。無論同行する者も同罪とみなす。よいな?』
二週間。短いよ。きっとあっという間だ。タキ=アマグフォーラって遠いのかな?
『それから、明日おまえたちを城の皆に披露する。以上だ』
嫌とかなんとか言える雰囲気じゃない。王様は立ち上がって、並んでいるみんなが一斉に頭を下げる中、さっさと部屋から出て行ってしまった。
気が抜けたように立ち尽くすわたしの耳に、駆け寄ってくるタクとラクエルの声が届いた。
『リオコ!』
たぶん、これから波瀾万丈。だけど大丈夫。彼らがいる。
そして――新しくできた男前な友達がいる。
――きっと大丈夫。
ここへきて不思議なくらい、わたしは前向きな気持ちになっていた。