表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/163

6-2


 真紀は、わたしと同じ高2っていうのが嘘みたいなほど、堂々と王様と会話していた。

 顔は赤くなっていたし、わたしの手を握る手の平は汗ばんで時々ぎゅって力が入ったけど、それでも信じられないくらい自信に満ちていた。足はがくがくだったらしいけど。

『二人で行くだと? そんな話は聞いたことがない』

『お聞きになったというのは予言ですか? それとも、百五十年前のほとんど残っていない記録のことですか?』

 百五十年前の記録ってなんだろう? やっぱり指環を手にしていた真紀は、わたしよりたくさんのことを知っているみたい。

 わたしは爆発しそうな心臓を必死でなだめながら、隣でそれを聞いていた。

『先程の会話で、わたしも彼女も間違いなく同じ異界から来たと確認できました。ただ、彼女のほうがふさわしいとの印が出たので、彼女を乙女と言っただけです。わたしは彼女の手助けをするために来たのだと理解しています。二人で聖地へ行くことを認めてください』

『ならぬ』

『では――水門は開かれなくてもいいのですか?』

 再び、ざわりと部屋が揺れる。

 王様に向かってすごく挑発的な言葉だけど、本当に大丈夫かな? なんか向こうの金髪の人、眉間にすごい皺寄ってるけど?

『王様、わたしたち二人にチャンスと時間をください。何の力もないように見えますが、この世界に招かれたのなら、そこにはきっと理由があるはずです。それを解き明かす機会を与えてくれませんか? 二人いれば、そのチャンスは二倍ある。そう考えてはもらえませんか?』

『二人とも偽者なら、なんとする?』

『この世界は乾ききって滅ぶか――いいえ、実は滅びないかもしれない。人間はしぶとい生き物です。どうやっても生き延びようとする。本当は、そこにわたしたちの手助けなんてなくても良いのかもしれません。

 それでも、より多くの人が生き延びられるチャンスがあるなら、賭けてみるのが王という立場の務めではないでしょうか。たとえ失敗しても――』

 真紀は一度言葉を切って、唇に不思議な微笑を浮かべた。

『異界の人間の命など、こちらの人たちの知ったことではないでしょう? この世界に最初からいるはずのないものが二人いなくなる。それだけです』

『命を懸けると申すのか』

『他に賭けるものが、わたしたちにありますか? この体ひとつで異界から来たのです。戻りたくてもその方法を知らず……この世界に保護してもらうしかないのですから』

――そうだよ。

 わたしは、真紀の腕の陰でこっそりと頷いた。

 選ぶようなことを言ってるけど、元からわたしたちに選択権はない。分かりきったことなのに、わざわざそれを突きつけられているようで、すごく哀しいし腹が立つ。

『与えるのは、機会と時間だけでよいのか』

『このアクィナスの魔法の指環と……あとは、旅の間わたしたちを守ってくれる信頼できる人たちを何人か。それに、この世界で基本的な生活ができる程度の自由になるお金を下さい』

 はっきり言うなあ、真紀。大人っていうか、もう男前だよ。

 王様も同じことを感じたのか、無表情だった顔に初めて感情の色が見えた。苦笑ってやつだ。

『ふ……威勢のいい小娘め。申すとおりにしてやろう』

『あ、ありがとうございます』

『ただし、こちらからも条件がある』

『条件?』

『期限は二週間だ。それを超えたら、二人とも覚悟するがよい。無論同行する者も同罪とみなす。よいな?』

 二週間。短いよ。きっとあっという間だ。タキ=アマグフォーラって遠いのかな?

『それから、明日おまえたちを城の皆に披露する。以上だ』

 嫌とかなんとか言える雰囲気じゃない。王様は立ち上がって、並んでいるみんなが一斉に頭を下げる中、さっさと部屋から出て行ってしまった。

 気が抜けたように立ち尽くすわたしの耳に、駆け寄ってくるタクとラクエルの声が届いた。

『リオコ!』

 たぶん、これから波瀾万丈。だけど大丈夫。彼らがいる。

 そして――新しくできた男前な友達がいる。

――きっと大丈夫。

 ここへきて不思議なくらい、わたしは前向きな気持ちになっていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ