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3-5


 イェドにもうひとり渡り人がいる。

 ルイスからそう聞かされて、あたしはどきどきが止まらなくなった。

――同じ立場の人がいる。同じだ。あたしだけじゃない……!

 これを喜ばずして、何を喜ぼう。

 どうしようもなく顔をほころばすあたしの横で、ルイスがこれ以上ないくらい険悪な雰囲気を纏っていた。でも気にしない。仲間がいる。仲間に会える。

『ね、その人いくつくらいかな?』

『知るものか』

(『まだ若い乙女と聞いていますよ。あなたと同じように』)

 まだ繋がっている鏡電話(勝手に命名)の向こうから、大神官だとかというヘクトヴィーンがにこやかに教えてくれた。

『ええっ。じゃあ、同い年くらいかな?』

(『そのように聞いています』)

『うわ、やっぱ女の子なんだよね。どこから来たのかな?』

『異界からだと言っているだろう』

 地下から染み出そうなルイスの声。

『だって、あたしの世界は百近い国があるって言ったじゃないですか。忘れたの?』

 本当は百以上だ。さっき教科書で数えたら、ざっと百九十はある。知らない国ばかり。

『日本人だといいなぁ~。言葉通じるかなあ。あ、指環があるから平気かな?』

(『なにやら楽しそうですね』)

『そりゃだって! まったく知らないところで知り合いかもしれない人に出会うなんて、テンション上がりまくりですよ。すっごいどきどきですっ』

『偽者かもしれん』

 あくまで刺々しいルイス。鏡の男は鉄壁の笑顔で、その棘を跳ね返した。

(『そうですねえ。その方は、こちらの方のように運よく〝魔法話の指環〟を持っている方に出会わなかったようで、随分と言葉が通じなくて苦労されたようですよ。最初は泣いて取り乱して大変だったとか。まあ……異界から来られたのであれば当然の反応ですが』)

――あれ?

 なんだ、この違和感。まさか皮肉を言われているとか。

『彼女も気を失った。そう言っただろう』

(『ですが今朝は楽しくお食事を召し上がられたそうで。あちらの乙女は、ショックのあまり水も喉を通らぬようですよ』)

 明らかに厭味だ。しかも、あたしに当て込んでルイスにまで。

 ちょっとムカつく。いや、これは怒っていいはずだ。

『……すみません、ちょっと質問があるんですが』

(『なんでしょう?』)

『異界から来る乙女とやらは、一人と決まっているんでしょうか?』

 ヘクトヴィーンは堅苦しく黙り、しばらしくして口を開いた。

(『百五十年前は御一人だったと伝えられています』)

『でも、あんまり資料残ってないんですよね? っていうかほとんど』

(『ええ、まあ』)

『予備で二人っていう考え方はないんですか? 一人がダメな時用とか』

(『予備?』)

『そ。女の子一人じゃ荷が重いから、もう一人。世界を救うんなら、百人来たって重いくらいのプレッシャーですよ。最初の人がどう思っていたかは知りませんけど。

 それに、あたしが指環をもってるルイスと出会ったことを怪しむんなら、もうちょっと異界と繋がる場所の調査をするべきじゃないですか?』

(『調査、ですか?』)

『もし最初の人が来たのがこの近くだったら、それでルイスの先祖と会ったんだったら、この近くに異界と通じる扉がもともと備わっているのかもしれない。何かのきっかけがないと開かないだけで……だったら、二度同じことがあったっていいでしょ? 偶然じゃなくて必然』

 思いつくままに喋る。だって絶対に、あたしもルイスも嘘をついていないから、説得の材料を探すだけだ。

『それに、扉がひとつなんて誰が言ったんです? 予言遺して鍵も遺して扉も用意した立派な大賢者さんなら、万が一に備えていくつか扉を準備してあっても、おかしくないんじゃないですか? 扉だけあっても、そこを通る人がいないと意味ないんだから。違う?

 そんなちゃんとした事実確認なしに、頭ごなしにあたしたちを偽者扱いしないでください。すごい迷惑、です!』

 実際の本人を目の前にしていないせいだろうか。あたしは、勢いよく言い放った。

 すぐ横で、ルイスが凍り付いているのが分かる。馬鹿だ、あたし。ルイスの立場が台無しだ。

 ちらり、と彼を窺う。

『……い、言い過ぎた?』

『言っていることは間違っていないとは思うが、まあ』

『ごめんなさぃ…………』

 気まずくて、熱くなった頬を両手で覆う。くくっと鏡の中から笑い声が聞こえた。

(『どうやらこちらの乙女は、随分しっかりした考えの持ち主のようですね』)

『……すみません。ちょっと調子に乗りすぎました』

(『いえ、頼もしいですよ。天都でお会いできるのを楽しみにしております』)

『え……?』

(『もう一人の乙女は、すでに天都に向かわれています。お会いになりたいのでしょう?』)

 さっきルイスが行くのをあんなに反対してくれていたのに。でも、頷いた。

『……はい』

(『では、お待ち申しております。異界の乙女よ』)

 芝居がかった調子でやんわりと告げると、ヘクトヴィーンは右腕を折って深々と優雅にお辞儀をした。そして、消える。

 あたしとルイスの前にある姿見は、暗いただの鏡になった。



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