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小話(1):お土産

拍手に載せていた小話を採録しました。終章直後です。R注意。

途中で視点切り替わります。

 

(マキ視点)


「おかえり~。真紀ちゃん」

「ただいま!」

 あたしが贈った紅い魔法話の指環を嵌めた理緒子と、感動の再会を果たしたのも束の間。

「なにこのいっぱいの荷物」

 どこの夜逃げかというくらい両手いっぱいの荷物にどん引きされた。お土産の入っている紙袋を渡せば、中を覗き込んだ途端に悲鳴があがる。

「きゃあああっ。崎○軒のシュウマイだああぁ!」

「うん、理緒子が食べたいかなあって思って」

「食べる食べるぅ。……あ、カガロフさーん、お台所借りまーすっ!」

 紙袋を抱え、さっさと背を翻した理緒子がお屋敷の厨房に駆けていく。レンジがないからどうかな、などと思ったあたしの心配はまるで杞憂だ。

――にしても……。

 ぐるりと見回し、広いはずのお屋敷を埋める人数に溜息をついた。

 扉の開く先が天都かアクィナスか分からなかったから多めには買って来てあるものの、この様子では食べ物関係を全部放出しきらないと一食分にすら足りそうにない。

――多すぎるだろ。

 茫然とするあたしに、心を読んだようなシグバルトが苦笑しつつ、荷物の運び入れを手伝ってくれた。


 嵐が去ったように、タクと理緒子を除いたお客はアクィナス領主宅へ引き取られていった。

 お屋敷中をひっくり返した宴会のあと、話をしたくてルイスの部屋にいけば、まだ解ききれていなかった荷物を広げているところに出くわした。

 その中に、ルイスが向こうで着ていた上下一式を発見する。

「これ持ってきたの?」

「ミツキが記念にって」

 真冬仕様のニットカーディガンと起毛地のシャツとパンツは、マフォーランドではどこの罰ゲームかというレベルだ。本当に記念にしかならない。

 服を畳み直しながら取り出すと、その下からティッシュケースより小さい派手な箱が現われた。

「なにこれ?」

「あー……ミツキからのお土産」

「誰に?」

「……私に、だと思うけど」

 ふううううん。

 なんだかパッケージに〝うすくて丈夫。ぴったりフィット〟って書いてあるんですけど。

「ルイス、これなにか聞いた?」

「いや、そんな時間はなかったから。ああ、でも……男なら分かるって」

 片付けの手を止めないまま宙に視線を浮かせ、思い返すようにルイスが言う。

 確かに使うのは男のほうだよ。だけど、妹の初カレにあげるお土産では断じてない!!

――兄めええええ。

 興奮のあまり指力が入りすぎて、小箱がめこっと潰れる。いくら兄からのイヤゲモノとはいえ粗末にはできないので、慌てて角を摘んで形を戻した。へこみを確認しながら、派手なパッケージについつい目がいってしまう。

――〝ゴム不使用。ポリウレタン製でアレルギーの方にも安心。〟へー。敏感肌だからうれしいかも。〝サイズL〟……サイズってあるものなんだ。え、える……?

 初めてまじまじ見るその内容に、心の中で一人突っ込みをしながら真剣に読んでしまう。ふいに手の中から銀色の小箱が消えた。

 目の前で金髪の男が、消えたそれを片手に満面の笑みを浮かべて覗き込んでくる。

「そんなに気になるなら試そうか?」

「……っ!」

 頭の先まで熱くなって、咄嗟に箱を取り上げようと手を伸ばす。が、難なく上に持ち上げられた。身長差が憎い。ぱたぱたと広げた指をひらつかせる。

「ルイスっ、本当はコレのこと聞いてるでしょ?!」

「聞いてないよ。だけど向こうでリオコに会いに行ったとき、ミツキが〝使う機会を逃したな〟と言っていたから、なんとなくは気がついたけど」

――もう、兄。今すぐ埋めに行く!!

 あの日帰り旅行は、あたしも決めた後で家族公認でルイスと旅行なんだなと思ったよ。旅行先では家族に気兼ねなくいちゃつけるかなとも少し妄想もしたけどさ!

 ……丸ごとぱっくんは、まだもうちょっと先でいいかなと思うわけですよ……。

 伸ばした腕を引っ込めて後退れば、すっかり肉食獣の顔をした男が小箱を手に一歩出る。

 一歩退り、一歩出るくり返しは、だけどあけっぴろげな荷物に阻まれて停止を余儀なくされた。

「マキ。一緒に使ってみようか?」

「……い、いらない」

「ほんとに? 興味ありそうだったのに」

「な、ないもん」

「でもせっかくのお土産だから、使ってみないと。ミツキに悪いし」

「ひ、ひとりでどうぞ」

「……」

 ひさびさにルイスの目が極寒になった。常夏のマフォーランドではありえない氷点下だ。

「マキ。これは私が君と正式に付き合うことをご家族に認めていただいたということだと思ったんだけど?」

 それがおかしいんだよ、兄。恋愛初心者の妹に押しすぎだろ。

「だ、だけど、まだ早いかなって。それに、今は隣に理緒子たちいるし」

「別に今ここで使うつもりはなかったんだけど?」

 にんまりと実に愉しそうにルイスが口元をほころばせる。極寒の冬から春になったのはいいけど、代わりに纏わりつくような色香が漂う。

「……じゃあ、これは後のお愉しみにおいておいて」

 ことり、と芝居がかった手つきで銀の小箱がテーブルに置かれる。

「別の質問をしよう。――ミツキよりファリマのほうがいいって、どういうことだ?」

――い、いつの会話ですかそれ……。

 あうあうとうろたえるあたしに、青い目を細めた金色の獣が、ずいっと顔を寄せる。

「あの、あれはほら、その兄妹だと男性としての評価外っていうかね。べつにヴェルグがいいってわけじゃなくて、比較対象がね」

「ふうん?」

 言い訳というものは、重ねれば重ねるほどボロが出るというもので。

「つまり君は、まだ他の男のことを考える余裕があるというわけだ?」

 かわいらしいはずの大型犬は、手にした獲物を逃す気はさらさらないらしい。

――犬って確か雑食だったような。

 なんていう兄から吹き込まれたくだらない豆知識が脳裏をよぎる間もなく、散乱する荷物をそのままにあたしは目の前の腕の中に閉じ込められた。


 ――秘密の小箱の出番は、案外と早いかもしれない。


◇ ◇ ◇


(リオコ視点)


『タク、これどうしたの?』

『ルイスからもらったんだ。向こうの世界のものらしい』

『……ふうん? どこで買ったんだろうね?』

『マキのお兄さんがくれたらしいぞ。他にもあるからと譲ってくれたんだ』

『…………へーえ。なにするものか聞いた?』

『いや。体に塗るものらしいけど、よくは聞いてない』

 塗れば分かるのかな、と平然と口にする男をなんともいえない目つきで眺めてしまう。

 わたしが手にしているのは、ドレッシングサイズのプラスチック製ボトルだ。シンプルなデザインで、商品名らしきロゴと〝女性にやさしいモイスチャー成分配合!〟の売り文句がでかでかと書かれている。

 わたしも、話には聞いていたけど、本物を見るのは初めてだ。

『……ルイスはいらないのかな?』

『必要ないと言っていたぞ?』

『……』

 純粋な肉体のメンテナンス用だと信じているタクに、どう真実を伝えるべきかしばらく悩む。

 ルイスが知らないで渡したとは考えにくい。他になにをもらったのか、尋ねなくても判る気がした。

――真紀のお兄さん、一体なに考えてるんだろう?

 やることがナイスすぎる。

 これを持って二人でルイスのところに行くべきか、はたまたルイスと真紀が揃ったところに乱入するのがいいか。

 だけどまあ、向こうは向こうでよろしくやっていることだろうし、せっかくのお兄様の心遣いを無駄にするのももったいないというものだ。

 〝舐めても安心〟と書かれたそれを手に、わたしはにっこりタクに告げた。

『わたしが使い方教えてあげる』

『ああ、ありがとう』

『使ったことはないんだけどね。でも大丈夫だから』

『無理をしなくても……』

『無理じゃないのっ。ちょっと勇気がいるだけで……だからタクも、わたし以外の人から使い方教えてもらったらだめだからね?』

『? 分かった』




おしまい。


…くだらなくてすみません…。

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