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21(後)-5


 話し合いもだいぶ経ち、水や餌に飽きたらしいパンが、テーブルの上の鵞ペンで遊びはじめた。高価なものだったらヤバイと焦ったけど、シャルルさんは淡々と話を進めながら、羽根の部分をぱたぱたさせてじゃれつかせている。案外といい人だ。

 あたしたちがいない間に天都で起こったこと――それは、王様の秘密の大暴露大会だったらしい。この王様というのは勿論、今のではなく、あのオルフェイド王のことだ。

『話して聞かせるより、こちらが早い』

と王様がルイスに渡したのは、一冊の古びた革表紙の冊子。文字が読めないあたしたちのために、シャルルさんが率直すぎる言い方で説明してくれた。

『簡単に申し上げると、前の乙女の第一発見者はオルフェイド王そのひとで、その場所が王の寝室であったということです』

『……えっ』

『は?』

 渡された冊子は、オルフェイド王の日記なのだそうだ。ルイスが実家で発見したキリアンさんの手記なんて比べ物にならない、当時の肉声が聞こえてきそうなリアルな内容らしい。ルイスがユリアさんを王妃だと口走っても、みんな驚かなかったのも納得だ。

 あくまで自分のために書いたものだけに内容はこっぱずかしいのだけど、乙女を見つけて聖地まで同行したうえ、妻に迎えた人の目が捉えた当時を知ることができるのは貴重だ。しかも巻末には、日本語=マフォーランド語の対応一覧まで付いている。

『うわ、これ欲しい!』

『すごいねー。発音まで書いてるんだ。いいなー』

 日本語の隣には英語表記まである。ユリアさんが作ったんだろうか。ものすごい根気と忍耐のいる作業だったに違いない。

 ちょうだいと王様に目で訴えたけど、だめだと一蹴される。貴重な文献なのは分かるけど、これがあるとすごくお役立ちなのに。

『では、複写させていただいてもよろしいでしょうか?』

 なぜかルイスまで乗り気だ。タクが呆れたように口を挟む。

『指環があるからいらないだろう?』

『文字も読めたほうがいいに決まっている』

 誰が?と訊くのは、野暮ってものだろうか。だけど王様は別のことが気になったみたいだ。

『指環とは、二人が今使っているものではないのか?』

『実はレインから別の指環をもらいました。彼女たちの持っているものとは逆に、こちらの言葉を日本語に変換するものです』

 上着のポケットから、ルイスが青い石の嵌まった指環を取り出して見せる。周りが全部マフォーランド人なので、変換を確認しづらいのが難点だ。

 青い石の指環を手に取り、王様が話しかける。

「儂の言うことがわかるか?」

「はい」

と、こちらは指環から手を離して答える。うん、王様の日本語も相当な違和感だ。

「どうも効果がよく分からんな。なにか喋ってみせよ」

「ええと、今日はいい天気ですね?」

「おまえたちのところでは、雨の日をいい天気と言うのか?」

「……言葉の綾です」

 指環のすごいところは、あまりに変換が巧みすぎて、いまいちありがたみが湧かないことだ。王様が指環をテーブルに戻し、シャルルさんになにか尋ねる。あたしが理緒子のもつ赤い指環に手を戻した途端、その会話が理解できる言葉に変わった。

『聞き馴染みのない言語で会話をされてらっしゃいましたが』

『儂は普通に話しただけだがな』

『ちゃんと日本語でしたよ?』

と理緒子。ふむ、指環を嵌めてたけど、理緒子には日本語だったんだな。それに紅い指環を嵌めて喋る理緒子の声は、あたしには日本語なんだけど、青い指環を嵌めた王様の言葉は同じマフォーランド人にも日本語に聞こえるらしい。

――いろいろややこしいな。

 テーブルに置かれた青い石のついた指環をオズが摘む。

「……なるほど、これはただの貴石だな」

『石が違うんですか?』

『そちらの指環の紅い石は〝法玉(ほうぎょく)〟と言う。簡単な魔法式を無限再生するように組み込んだ魔法具だ』

『……よく分かりませんけど、魔法って保存がきくものなんですか?』

『力を溜め込むわけではない。その石の効果を言うなら、持ち主の魔法力を高め、触れずとも送心術をおこなえている状態にしているわけだ』

『へえええ?』

 つまり紅い指環は、レインとソロンさんの合作ってことか。魔法士長でもあるオズが、少し悔しそうに青い指環を指先で弾く。

『法玉が嵌まっていなくても言語変換が可能とは、秘密は石ではなく台座か』

『はい』

 ルイスは頷き、玩ばれないようにするためか、指環を脇へどけた。今度はシャルルさんがパンをじゃらしていた手を止め、ひとしきり観察して置き直す。

『マフォーランド語=日本語変換機能とは、面白いことを考えたものだな』

『試作品だそうです。彼女たちにとっては、あまり役に立つものではないかもしれませんが』

『だが、君は満足していると?』

『ええ。代償は少々高くつきましたが……私の力を開放し、彼に魔法を教えることに』

 下手をすると睨んでいるようにも見えるシャルルさんの三白眼が、ルイスからタクに向かう。

『君の手の代償はなんだね?』

『たいしたことではありません。サンプルが欲しいと言われまして、血液を採られました』

『サンプル?』

『はい。魔法力をもたない、強健なマフォーランド人の試料が欲しかったそうです』

 人を人とも思わないレインの要求に、書記役のツークス領主のペンが束の間止まる。

『手を見せてみろ』

 命じられ、タクが右手に巻かれていた白い布をとりさった。筋肉が落ちているせいか左手よりもほっそりとして、肌色が淡い。それでも前のひきつれた傷痕と捻じくれ曲がった指は、まるで幻みたいになくなっていた。

 アルが無言で驚き、確かめるようにその手をとる。

『痛みは?』

『ありません。動きも普通どおりです』

『あの状態が、どうやったらこれほどまでに回復するのだ?』

『説明をされましたが、俺にもよく分かりません。元の状態から一度ばらばらにして再構成させるのだとか』

『驚くべき医療技術ですね』

 そう呟いたのはヘクターさん。驚きと言うより呆れに近い響きが含まれている。なにしろ二十一世紀でも成し遂げられていない技術だ。シャルルさんが顎を引いて同意を示す。

『なるほど。お二人が悪用を恐れるというお気持ちが理解できました。ただ、例え原理を知ったところでわれわれの手で再現できるかというと、また別の問題でしょうが』

 そう、この手術ひとつにしても、一朝一夕に真似するなんて不可能だ。それには正確な人間の体の構造を知り、病態を明らかにする検査機器が必要だ。さらに精密な医療器具や麻酔や抗生剤などの何種類もの薬。清潔な環境だっている。

 なによりもまず、それらの基盤となる科学の知識や概念を理解しなくてはいけないのだ。ただ表面だけを写し取ればいいなんて、そんな単純なものじゃない。

 考えをめぐらすように、王様が指先でこつこつと肘掛けを叩いた。

『[まほら]に含まれた知識を確認し、検証する調査隊が必要だな』

『……あのっ、それはぜひ私に!』

 遠慮がちに、だけどはっきりと名乗りを上げたのはツークス領主だ。

――おい、領地はいいのか。

 心で突っ込んだけど黙っておいた。なんとこのお気楽男、フージェ一族のくせして、あたしが渡したオーディオ・プレイヤーがいたくお気に召したらしく、異界のものであると証明すべくヘクターさんに頼み込んで天都まで来てしまったらしい。で、オルフェイド王の日記が暴露されるその場にも居合わせたりして、口も頭も回るほうだから、現在あたしたちにまつわることの雑用を一切任されているようなのだ。

 つまり社会的立場や一族の利害関係よりも、個人の知的好奇心のほうが上回ったってわけだ。ついでに第二妃であるお姉さんは、子どもがいないこともあり、一日でも早くツークスに帰りたいのだという。

『――姉に夫を迎えて領主にして、自分はどっぷり学問に浸かって生きるのが理想』

なのだそうだ。そんなこいつにとって[まほら]は、さだめし宝の山だ。

『拠点をツークスかヒューガラナに置くことになろうゆえ、領主のおぬしを前線にやるわけにはいかぬわ』

 王様はツークス領主の情熱を素気無く削いで、隣の長身痩躯の天才を横目で見やった。

『儂としては、おまえに任せたいが』

『太政大臣を辞めて良いのであれば、喜んでそういたしますが?』

『無理だな』

『それでは、アクィナシア魔法士ではいかがでしょう? 一度聖地の内部に入っておりますことですし』

『ふむ。ヘクター、おまえはどうする?』

『聖地を魔法士の管理下に置くことは了承しかねますが、偶然発見されました[まほら]という未知の文明に関しましては、私どもの関知するところではありません』

 もって回した言い方で、ヘクターさんがノータッチ宣言をする。なんだろう、偉い人の話し合いって、いつもこんな建前と本音が二重走行するものなんだろうか。

『ではアクィナス、メンバーの選出は任せる。学者、医者、技術者……幅広い分野の一流のものを揃えよ。この件は人選が肝要だ。シャルルに相談に乗らせよう』

『はい。ですが、それでは[まほら]の秘密保持が難しくなってまいりますが』

『致し方あるまい。ただし乙女への接触は限定させる』

『承りました』

 ルイスが頭を下げる。どのみちレインに魔法を教えに行かなきゃいけないから、ちょうどいいかもしれない。

『彼女らを後宮へ移す話は、ミア=ヴェールより聞いたな』

『はい』

『慌しいが、これよりその準備に入れ。早くもクロヴィスが何かを嗅ぎつけたらしい』

『かしこまりました』

『おぬしらの〝帰還〟は、これより五日先だ。同時に王后の戴冠式も執り行う。覚悟をしておけ』

 結局王様のその言葉が終わりの合図となって、長いようで短い会談は終わった。呆気ない気もしたけど、実はこれが何度もくり返される話し合いの一歩目に過ぎなかったことを、あたしたちはそう遠くない将来で思い知ることになった。


 会談終了後、王様が[星辰の間]を出て行ってから、あたしたちは残ってオズたちと少し話をした。千里眼をもつ彼は、どうしても一度きちんとあたしたちを〝視て〟おきたいのだという。

『今さらという気もするが、すじは通しておかねばな』

 魔法士でも滅多にないその力のために、素性の怪しいものや初対面の人が主要な会合に参加するときは、密かに呼ばれて人物の見極めをするのが役目なのだそうだ。

 今日の雰囲気からも、オズが王様だけでなく太政大臣のシャルルさんや神官長のヘクターさんからも信頼されているのがよく分かった。平民出身だというオズは、そんな面子に囲まれても引けをとらないくらい堂々としているのに、ふと見せる表情や言葉遣いにはてらいがなく、レス曰く〝筋肉ハゲ〟という外見にも関わらず、あたしにとって一番の癒し系だ。

 他の人が近づくと首の後ろに隠れてしまうパンも、オズの前では肩に乗ってじっと彼を見上げている。

『どれ、視てみようか』

 テーブルではなく、部屋の片隅で椅子と椅子を向かい合わせにして、片方にオズが座る。ひとりずつと促され、まずあたしが腰かけた。

 指環をどうしようかと思ったけど、必要ないと身振りで示される。前に出したあたしの両手をとり、オズは眉をひそめた。

『……ちょっと失礼』

 立ち上がると、離れた壁際でレスたちといたルイスに歩み寄る。そしていきなり金色の頭をすぱこーん!と平手で殴った。

「xxx!」

 なにやら激しい怒声が聞こえる。気まずげにルイスが殴られた頭に手を当てた。

 なんだろうと眺めていると、椅子の背についと寄ってきた理緒子が囁く。

「真紀ちゃん、ここ」

 左の襟元を指で差す。見ようとシャツを引っ張ると、慌てて戻された。理緒子の顔が赤い。

「……キスマーク、ついてるから」

「き……!」

 ぶぼぼぼぼ!とあたしの顔から火が噴いた。いつって、それはもう心当たりはひとつしかない。

――ルイスの馬鹿~~~っ!

 朝食の終わった直後に時間を巻き戻したい、いやむしろ今すぐここで穴掘って埋まりたいなどと悶えていれば、叱って気が済んだのかオズが戻ってくる。

『失礼した。馬鹿弟子がそこまで節操のないやつだとは思いませんでな』

 言いつつ、あたしの首筋を指先でひと撫でする。じいんと一点が暖かくなったから、治癒術で痕を消してくれたのだと分かった。

「す、すみません」

『所有印をつけるときは相手の許可を得るようにきつく言っておきましたので。それとも……消さないほうが良かったですかな?』

 いえ、むしろあたしのほうを消して欲しかったです、と言えるわけもなく。黙って、首を横に振って否定した。

 そのとき部屋の隠し戸を開けてアルが現われ、「リオコ」と呼びかける。理緒子は心配そうな顔をこちらに向けていたけど、あたしは行って来なよと手を振った。

 魔法話の指環がないのは不便だけど、送心術もあるし、いざとなればルイスの青い指環もあるから平気だろう。

 オズがあたしの顎の下に指先を当て、わずかに上向けるようにして見つめる。千里眼の彼にはなにが視えているのだろう、想像もつかない。

 目つきは鋭いし、褐色の地肌が見える頭の左側には黒々と刺青が彫ってある。なのに恐怖心を感じないのは人柄のせいだろうか。

――肌、きれいだなあ。いくつくらいなんだろう……四十?五十? 刺青すごいなあ、トライバルって言うんだっけ? 幾何学模様の鎌のような葉っぱのような、翼にも似てるかな。頭、毎日剃ってるのかなあ。かっこいいなあ。

『それはどうも』

「……えっ?!」

 送心術で響いてきた返事に、思わず声に出して驚いた。目の前の彫りの深い顔立ちが、悪戯そうに笑う。

『失礼。褒めて頂いたのであれば、礼くらい言わねばと』

 頭の中で、ぴぴぴとマーレインに関する情報が繋がった。

「オズさんも原始型マーレインなんですか?」

『そういうことになりましょうな。力の区分でいけばですが、実際はいろいろ面倒なので表向きにはしておりません』

「アマラさんが送心術はあまり好かれないって言ってたけど、そういう関係ですか?」

『心を読んだり読まれたりなど、嬉しがるものもいませんからな。アマラとお会いに?』

「はい。こっちに帰ってきてから、まだ会えていないんですけど」

 なんたって、アマラさんにはルイスの手綱の取り方を教わらなきゃいけないのだ。

 考えが伝わったのか、あたしの顔に指先を当てたまま、くくくとオズが笑いを殺す。

『それは重要なことですな』

「……すみません、くだらなくて」

『いや、とんでもない。マキどのは、我が弟子を好いてくださっているのですな?』

「は、はい」

『それに、あやつのほうもマキどのを好いておるようです。だが……あなたはまだ若い』

「ふ、不釣合いってことですか?」

 不安に声を裏返せば、オズは大きな笑みでかぶりを振った。

『そうではありません。あなたは成人もしておらぬようだし、この世界に来て間がない。これから常識やいろんな物の見方を知ることになりましょう。慎重さを失わぬことをお勧めいたします』

 少し黙って、その言葉の持つ意味を咀嚼してみる。

「……オズさんは、ルイスのことがとても大事なんですね」

『弟子はみな子ども同然です。ルイスは仕事やその他のことに関しては誰よりも冷静沈着な男ですが、人付き合いとなると五歳の子どもより不器用でしてな。感情に目が眩んで、なにも知らないあなたを強引に丸め込むようなことになれば、ご両親に合わせる顔がありません』

「そういえばルイス、親に挨拶したいから、話ができるくらいには異界の扉を開けるってはりきってるんです」

『……もうニ、三発殴っておきましょう』

「あ、あんまり痛くない方向でお願いします」

 はは、とオズが声をあげて笑う。

『マキどのはやさしい。やさしすぎるほどだ。まるで、大地をあまねく照らそうと昇る朝日のような、真っすぐであたたかいやさしさです』

 あらたまって人からやさしいと言われたのは初めてだ。それに光なんて、なんとも微妙な感じがする。輪の中心よりちょっと端っこが好きなほうだから、陰と陽なら〝陰〟のほうだとばかり思っていたのに。

『その光の明るさ、あたたかさに周囲の――そのミヤウも例外ではなく――皆は強く惹きつけられてやまないでしょう。だが同時に光は、照らし出すものに陰を落とす』

「……」

『光差すところに必ず闇は生じるもの。しかし生まれる陰を思いながら差す光は、そのものを導き、育むでしょう。それはいつか、陰に覆われていた部分を陽に当てようという気を起こすやもしれませぬ。

 忍耐強くあることです。常に陰を思い、自分の心に忠実で在ることが、あなた自身の光を輝かせる一番の道です』

「……帰る前、レインに[まほら]のことをどうするか相談したとき〝君たちが一番君たちらしく在れる未来を選びなさい〟って言われたんです。今、そのことを思い出しました」

『良い方ですな、あの方は。たとえ神という定義に当てはまらぬ存在でも、あなたがたを大切にされていることは、ひしと伝わってまいりました』

「でも自分らしくって、簡単なようで、すごく難しいです。考えれば考えるほど人の意見が気になって」

『自分自身というものが一番分からぬものです。迷うときは人に映るおのれの影を見ること――他人の意見を聞くことも、また大切なことです』

「オズさんは、魔法士長だからいろいろ判断するんでしょう? 迷いませんか?」

『迷いますとも。この年になっても、まだ迷うことだらけです。ですがどう思い煩っても、どんなに立ち止まって悩んでも、道は先にあるのではなく後にのみできるもの。あまり考えすぎずに突き進むことです』

「進んで間違ったら?」

『方向を変えればいいのです。時は戻せませんが、道は変えられます。おのれで気付かぬとも、周りが過ちを示してくれるでしょう。そのための友であり、守護者であり……寄り添える相手であるのです』

「オズさんは、ご家族はいらっしゃるんですか?」

『126人の魔法士が家族です。その家族が大事に想う相手もまた、私の息子や娘のように愛おしい存在でありましょうな』

 言葉の外に含まれるのは、ただひたすら大きな包容力だ。熱くなる瞼から覗く片隅で、オズが茶目っ気たっぷりに片目を瞑ったのが分かった。

『マキどの、もしルイスの手綱取りに失敗したら、遠慮なくお申し付け下さい。私が鞭をくれてやります』

「い、いざとなったらお願いします」

 その答えに、またもオズが大きく笑う。ふわり、と大きな手が頭を包んだ。

『ご心配には及びませぬ。本当に……あやつがあんな顔をするとは、思ってもみませんでした。マキどの、どうかあやつの傍をいつまでも照らし続けてください。一度温められて融けた氷は、もう元には戻りませぬゆえ』

――どうか、どうかお願いいたします。

 言葉にならない想いだけが、あたたかな手から大きな波のようにあたしに流れ込んできた。



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