21(後)-4
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会談の主導は、もちろん王様だ。まず太政大臣がツークス領主の差し出した資料を手に取り、それにほとんど目を落とすことなく旅の概要を語る。一見無表情なシャルルさんは、一度聞いたこと見たことは忘れない、天才肌の人らしい。
シャルルさんの話をところどころルイスが補足し、まだ報告がされていないらしい、聖地での出来事に移った。そのままルイスが話そうとすると、王様が手をあげて止める。
『その話は直接二人から聞きたい。話してみよ』
『えと、聖地の壁に触れたら中に入って、ソロンさんの映像があって、殴りかかったらレインが現われていろいろ事情を聞きました』
『……なんだか分からんな。まとめずともよいから、順を追って話せ。なぜ壁に触れた?』
あたしは理緒子に確認をとり、時にはシャルルさんが差し出してくれた白紙にすべりのよい鵞ペンで絵を描きながら、ひとつずつ記憶を咀嚼するように話していった。
自分たちの世界の文字を見つけたこと。壁に触れ、現われた青い光。気がついたら見知らぬ部屋にいて、日本語が聞こえたこと。そしてソロンさんの伝言。
『殴りかかったというのは?』
『勝手に〝罪を償え〟なんて理不尽な理屈で呼ばれたので腹が立ったのと……まあ、多少暴れれば、ソロンさんにその知恵を授けた黒幕が出てくるのではないかと思いまして』
『大胆なことを考えたものだな。女の身で拳を振り回したところで脅威にはなるまいが』
『と思ったので、手近な椅子を壊してそのパイプで殴りかかってみました』
奇妙な沈黙がその場に下りる。
――あれ? あたしそんな変なこと言ったか?
たっぷり十秒ほどの沈黙の後、王様が前を向いたまま口を開く。
『……ヘクター、おぬし殴られなくてよかったな』
『ええ、本当に』
『あたし、そんなに暴力的な人間じゃないですよ?』
『衝動的で感情的であるということは確かだ』
『椅子ごといくよりいいと思うんですけど』
『……真紀ちゃん、それフォローになってないから』
小声で理緒子にいさめられる。王様は仏頂面のままだけど、ヘクターさんとルイス、タクはなんだか頭を抱えてるし、両端の四人は肩を震わせてるし、微妙にシャルルさんにまで苦笑されてしまった。わたわたと左手を振って言い訳する。
『え、あ、あのときはテンパってたし、舐められちゃいけない気がして、ちょっと力が入ったというか』
『それはよい。それで、うまいこと黒幕とやらを引きずり出したのだろう?』
『はい。レインっていうんですけど、彼は[まほら]のメインコンピュータ――全部の情報や記録を保管したり動きを制御したりする頭脳だったんです』
目の前にいないから分かりにくいけど、なるべく理解しやすそうな言葉を選んで説明した。さらにレインから聞かされたことを話していく。
[まほら]が他の星から来た宇宙船であること。マフォーランドの人や文明は、その人たちが元になっていること。あたしたちはそのさらに先祖だということ。
水門は、幻月と呼ばれるミィカがそれで、MICAという天候を管理する人工知能を備えた機械で、周期的な太陽活動によって狂うこと。修復するにはレインを目覚めさせる必要があり、マフォーランド人にはできないこと。目覚めさせる人間を喚ぶためにソロンさんが召還の仕組みを魔法として仕込んだこと、などなど。
一度ルイスたちにも説明している内容なので、あんまり支離滅裂にならずに済んだ――気がした。
『で、そこまで聞いたときに、ルイスが稲妻で[まほら]を吹き飛ばそうとしたので中断しました』
『彼女たちが連れ去られたと思い、とり戻すために乱暴な手を使わざるを得なかったのです』
非難を封じるつもりか、やや被せ気味にルイスが言う。
『帰還したとは考えなかったのか?』
『スオウシア魔法士が未来視をした際、見たこともない白い部屋で彼女たちが泣いているのが視えたそうです。ならば、このときがそうなのではないかと考え、強硬な手段に打って出ました』
初めて聞いた話だ。未来視って恐い。自分がその場にいなくても分かるのは知っていたけど、その的中率の高さはハンパじゃなかった。
『しかしそれでは、神の逆鱗に触れたのではないか?』
『ええ、多少は』
『あたしたちが頼んで、二人を[まほら]の中に入れてもらったんです』
『それは重畳。では、魔法士の目から視た〝神〟とやらは、どうであった?』
『膨大な知恵と力の集積です。人の姿を纏っていましたが、あれはわれわれに警戒心を抱かせないようにしているだけで、実際は実体などありません。にも関わらず、あれは厳然たるこの世のものでした』
『この世? 理律に属するというのか?』
オズの問いにルイスが深々と頷く。
『はい。神域に在るものではありません。むしろ天律自体、認識できないと申していました』
『しかし、おまえの力を高めたのも、その〝神〟であろう?』
『高めたというより、理律を動かす基礎となる力を完全に開け放つ術を強引に教え込まれたと言ったほうがよいでしょう。曰く、われわれ魔法士は理律の使い方が未熟すぎるのだそうで』
レインが言いそうな台詞だ。納得できないのか、オズが胸の前で太い腕を組む。
『おまえたちの出会った〝神〟が天律に属さぬならば、聖地の〝場〟や水門もまた同様に理律にのみ属するということだな?』
『そのとおりです』
『さらにその〝神〟は、鍵を持つ使用者には逆らえないということだが――』
オズの言葉を引き継ぐように、王様が問いかけた。
『鍵とは、どこにあるのだ?』
あたしと理緒子は繋いでいた手を放し、ブラウスの袖をまくってそれぞれに腕を見せた。
定着に時間がかかるといっていた腕の紋様は、服までは通さなくても、まだ淡い光のすじとなって肌の上に残っている。
『なるほど……書いてあったとおりだな』
『書いてあった?』
『後で話す。その模様は、ひとりずつ別々につけられたのか?』
『いえ。鍵を刻まれたときに手を繋いでいたせいか、二人でひとつの模様みたいで』
光る曲線の端と端がつながるように、二人の腕を合わせる。すると突然、紋様が強く光りはじめ、あの未知の感覚が身の裡を走った。
――鍵が、開く……?
何も意識していなかったはずなのに、いきなり発動した鍵から放たれた光は、細かな粒子を空中に巻き上げる。それはすぐ近くでわだかまり、見覚えのある人の形を作った。
テーブルにいたパンが、数メートル飛び退って、ふーっと威嚇の声をあげる。
『……レイン』
『呼んでないのになんで……?』
《君たちが口でいろいろ説明するより、僕が居たほうが話が早いでしょう?》
中性的な美貌が澄まし顔で微笑む。
それにしてもタイミングが良すぎる気がするんですが?
《君たちが次に鍵を発動させるなら、それなりの場だろうとは思っていたからね。多少強引な手段をとっても表に出る算段はしていた。幸いここには媒体もあるし》
[まほら]にいるときよりややおぼろに見える少年は、なぜかルイスの頭に左肘、その手に顎を乗せて、右肩に軽く腰掛けるようにして正面を向いている。さすがの王様も驚きの声を呑んだ。
唐突な神の現出に全員が驚愕を隠せない中、一人納得できないのがルイスだ。
『あなたは……このために私の力を……』
《このためだけじゃないけど、利用できるものは有効に使うのが僕のやり方。ほら、開放して間もないんだから集中して。気を緩めると、許容量オーバーで脳が灼き切れるよ?》
『く……っ』
最初からそうだけど、この神さまはわりとドSだ。心は悪魔で見た目は天使の水門の神は、にこやかに驚く一同を眺め渡す。
《さてと。初めまして、マフォーランドの方々。君たちが〝聖地〟と呼ぶものの統制を司るのがこの僕だ。堅苦しい挨拶は抜きにしよう、僕の貴重な媒体が頑張れるのは五分が限度だからね。その間に質問を受け付けようか?》
『お目にかかれて光栄だ。我が名はサルディン、マフォーランドの王だ。われわれはあなたを〝神〟と呼ぶべきなのか?』
《オルフェイドの血脈か。嫌になるほど似ているな。そう……その質問には〝君たちが望むのなら、そうであっても構わない〟と答えようかな》
『あなたに、この世界を滅ぼす意志はあるのか?』
《破壊は人の成せる業だ。ただし僕も人に創られたものである以上、それに準じないとは言えないけれどね》
『では、神はこの世界になにを望む?』
まるでお互いの胆を探り合うかのようなやりとりをしていたレインが、ふっと口を閉ざした。ルイスの肩に腰掛けたまま、思いをめぐらすように腕を組む。
《――その前に僕からひとつ質問だ。王よ、永遠とはなんであると思う?》
『それは、時そのものの長さをいうか、そう感じる心をいうかで違うだろうな』
独り言のように応じ、王様はふむと唸った。
『そう……時間で言うならば、永遠とは悠久の時の積み重ねであるだろう。時の積み重ねということは、すなわち瞬きの間も永遠のひとつということになろうな。
感覚的なことで言うなれば、永遠とは人の心が感じるものだ。それは幾度も反芻する記憶やまたは願いであるだろう。ならば儂の思う〝永遠〟とは――心から愛しく想うものを腕に抱き、満たされた瞬間こそがそうであろうな』
鋭い眼光はそのままに、だけど口元だけはにやりと笑って告げられた王様の台詞に、耳を疑ったのはあたしだけじゃないようだ。砂糖菓子よりも甘い内容に、年頃の息子は複雑な表情で頬を赤らめている。
光の屑を散らすように、軽やかにレインが笑った。
《ははは。なるほど、なかなかよい答えだ……王よ》
海の深さを湛えた瞳。海を知らないこの国の人たちは、いったい何色に見えているのだろう。
《僕は、この世界になにも望まない。この世界は、おまえたちのものだ。おまえたちが望む未来を選ぶがいい》
『それは……』
《別に責任逃れをするわけではないよ。ただ基本的に、僕は使用者に追従する立場だからね……彼女たちの身になにかあれば別だけど。
彼女たちは、僕がこの世界に積極的に関与することを望んでいない。が、真実を話すことを選んだ。過去の遺物をどうするかは、彼女たちとよく相談したまえ。使おうが捨てようが好きにするといい。君たちは自由だ》
きっぱりと突き放した言葉。それは初めて自転車を漕ぎ出した子の支えを外すような、バタ足で泳ぐ子の手をそっと離すような、靭いやさしさに満ちていた。
《ただ、ひとつだけお願いがある。もし北へ領土を広げることがあれば、巨人たちの住まう場所は残してやってくれないか。彼らは主張することはないだろうけど、先住のものたちが追われるのは気の毒でね。それに彼らは、ああ見えて繊細なんだ》
『……承知した』
《では、そろそろいくとするか。ああ、彼女たちは忘れているかもしれないけど、先人の遺したものの中にはわりと即物的なものもあってね。生かして欲しいという遺言もあったことだし、必要とあれば傷つけることなく譲渡できるから、そのときは言ってくれ》
じゃあ、と気軽に手を挙げて、レインの姿が霧散する。急に部屋が暗くなった気がした。
大丈夫かと隣を見れば、ルイスが蒼い顔で額に手をついてうなだれている。レスが冷たくしぼった手拭きを渡すと、それを眉間の辺りに押し当てた。
『最後のはなんだったんだ?』
『……言い忘れておりましたが、陛下。[まほら]内部には前の乙女――オルフェイド王の王妃ミア=ヴィオラ妃殿下と思しき人物のご遺体が安置されておりました。しかも、その額には王后の宝冠が嵌められております』
『――アルマン。急ぎ宝物庫を確認して参れ』
王様が腰に提げていた金色の鍵を投げ渡す。アルはすぐに立ち上がり、部屋の奥に消えた。あんな隅に隠し扉が、と感心していたら、ほどなく手のひら大の青いビロードのケースを携えて戻ってくる。
王様の前で開かれたその箱の中からは、二羽の鳥が雫形の宝石を嘴にくわえ、銀製の小花と葉で縁取られた美しい宝冠が現われた。
『偽物、だな』
千里眼をもつというオズが、即座に断定した。
『要となる海泡珠が違う。これは白珠という別の石を加工したものだ。本物が、よもや聖地の中とは』
『オルフェイド王の次代から王后を迎えられぬのも道理ですね。正式な王后の宝冠がないのですから』
ヘクターさんも複雑な溜息を吐く。一人無表情のシャルルさんが、ずいぶんと手間もお金もかかって見える偽物を箱ごと手にとって、つくづくと眺めた。
『長年王室を騙しつづけただけに精巧な造りだな。ふむ……いい罠になりそうだ』
『シャルル。せっかくの戴冠の儀を汚すような真似だけはするなよ?』
『心得ております。なに、二、三年隠居を早めていただくよう根回しをするだけですから。こちらには、ちょうどよい手駒もおりますしね?』
抑揚も表情もないのに、なんだかシャルルさんがどす黒く微笑んでいるように見えて仕方ない。〝手駒〟と言われた瞬間、ツークス領主の肩がぴくりと震えた。そういえばこいつ、フージェ・ハランの血筋で、お姉さんが第二妃なんじゃなかったっけ?
――完全に敵方じゃん!
だけどまあ、ほとんど全部喋ってしまったし。それに王様がここにいることを許可したんなら、きっと何か意味がある。なぜだか素直にそう思えた。
今なら訊ける気がして、ずっともやもやしていた気持ちを口に出して問う。
『あの……王様はこれから[まほら]をどうするつもり、ですか……?』
『どう、とは?』
『[まほら]の中には、例えばMICAみたいに天候を変えたり、宇宙を飛んだりする技術と知識がたくさん詰まっています。それを使いたいと思いますか?』
『おぬしの疑問はそれだけではあるまい。言いたいことがあるのなら話してみよ』
促され、あたしはルイスたちにぶちまけたように、行き過ぎた文明がもたらした昏い未来と結末とを理緒子と一緒にこもごも語った。映像もないのだから実感など湧くはずもない遠い文明の話を、王様は無言で聞いていた。やがて口を開く。
『儂が今一番欲するものは、危機に瀕している国を救う策だ。[まほら]の中に、現在国中の飢えている人々を満たし、しばらく養えるだけのなにかがあるか?』
元素合成の食べ物が頭をよぎったけど、すぐに打ち消す。あれでは一部は救えても、国民全部に行き渡るまでは到底いかない。黙って首を横に振った。
『[まほら]に納められているものは、きっと貴重ですばらしいものなのであろう。それはこの国の在り方を変えるやもしれぬ。だが、それはあくまで長年の試行の結果だ。ゆえに、先の問いに対する答えは、まだ分からぬとしか言えぬな』
『だけど』
『まあ聞け。おぬしらが不安に思う気持ちが分かぬわけではない。だが、例え同じ〝手に取らぬ〟という結果であったとしても、知らぬゆえ手に取らぬのと、そのものを見極めてから手放すのでは、まるで意味が違うのだ。
それに、な。同じ地に撒かれた種でも、おぬしらとわれわれが違うように、まったく異なる実を生すこともあろう。ましてや、われわれはすでに自身を養うだけの土壌をもっている。おぬしらの文明は新たな道を示すかも知れぬが、それがそのまま根付くとも限るまい』
そうだ。この世界はもう飛行船技術も確立した、れっきとした異文化なんだ。あたしたちの世界の文明が悪影響を及ぼすなんて、決め付けるほうがおこがましいのかもしれない。
まだ不安は消えないけれど、そう思うことで、少しだけ心が楽になった気がした。
和やかな雰囲気に、すっかり落ち着きを取り戻したパンが、小皿に頭を突っ込んで木の実を齧りはじめる。緊張感のない、ぱりぽりという音をBGMに王様が言葉を続けた。
『確かにあの〝神〟を思うがままにできるというのは魅力的だが、〝触らぬ神にたたりなし〟とも言うことだしな?』
整った顔はあくまで彫像のようで、冗談なのか本気なのか区別がつかない。
『実はな、異界の乙女よ。儂がおぬしらを聖地へ行かせたのは、雨を降らせて欲しいからではない』
『え……』
『考えてもみよ。今さら乾いた大地が潤ったとて、すぐに土地が豊かになろうか? 水を惜しみなく使えようか? 飢えたものたちが救えようか? 答えは否だ。それらを為すのは人の、政(まつりごと)の力でしかない。儂が求めていたものは――〝希望〟だ』
漆黒の瞳が、意外なほどのあたたかみを湛えて、すっと細められた。
『確かに雨は必要だ。降ってくれねば、この国はまさに大飢饉となろう。だが、それ以上に必要だったのは、われわれが大いなるものに見守られ、祝福を受けているという実感だ。
おぬしらに見せたかったぞ……あの歓喜を。雨が降ったときの、天地を揺るがすような人々の鳴動を。堪えに堪え、乾きに乾いたあの大地に沁み込んだ一粒の雨粒は、まさしく神の存在そのものであった。あの瞬間われわれは、どんなに腹を満たす食べ物よりも生きる活力を与えられたのだ』
そう言って、王様はあたしたちをまっすぐに見つめ、はじめて微笑んだ。
『そういえば、まだ二人に礼を言っていなかったな。ありがとう……この国を統べるものとして、心より感謝を申し上げる。よく、やってくれた』
認めてくれた。それはあたしたちが思っている謝辞とはまったく違う、だけど率直で最高の称賛だった。
最初は勢いもあったし、ほとんどなりゆきで臨んだ旅だった。ルイスと出会わなかったらやろうとも思わなかったし、理緒子がいなかったら絶対途中で諦めていた。タクがいてくれなかったら、前を向くことを忘れていたかもしれない。
ヘクターさん、アル、レス、シグバルト、アマラさん、ジャム、イジー、パン。天都で旅の途中で出会った人たち。そして王様。レイン。誰が欠けても――お邪魔虫のフージェ・ハランでさえ――どんな出会いを無くしても、この旅は成り立たなかった。
――ああ……良かった。
あたしは十六年しか生きてなくて、世の中の真理に辿り着くにはまだまだだ。だけど、小さなことかもしれないけれど、こういうことが〝奇跡〟って言うんだと思う。
『王様』
『なんだ?』
『王様は、この世界が好きですか……?』
その質問に、一瞬黒い瞳が見開かれ、大きく頷いた。
『ああ、無論。おぬしらもそうなってくれると良いな』
本当はとっくにこの世界が大好きだったけど、なぜだか肯定できずに、ごまかすようにうつむいてこっそり理緒子と目を合わせた。
奇跡。それは例えば、大事な会談に動物を連れてきても怒られないこと。最悪の印象と思っていた人と同じテーブルで笑いあうこと。たった二十日くらいしかいない世界を好きになること。
一度気がつけば、奇跡は身の回りにたくさんある。
雨が降ったのは、神の御業ではなく科学の力だけど、そう思うことで誰かが救われるのなら。その種を蒔くことができたのなら、あたしたちの旅は無駄じゃなかったのだと思う。
――本当に、良かった。
この旅に出たことも、この人たちに出会えたことも、この世界に来たことも。
あたしが、あたしであって良かった。
そう思えたことが、あたしにとって最大の奇跡だ。
<造語>
*海泡珠(かいほうじゅ):涙型の真珠を想像していただけると分かりやすいです。
*白珠(はくじゅ):真珠に似せて、貝殻を加工したものだと思って下さい。一応これも宝飾品。だけど安い。