救いを求め
王国国境の検問所。ここは他国との往来で常に混み合っている。
一番人々の行き来が激しいのは大公国への検問所である。
王国とは兄弟国でもあり、交易も質も量も他より群を抜いている。
次に多いのは都市国家同盟との検問所。とはいえ大公国の半分未満。
都市国家それぞれで税率が異なり、商業の規模も小さいがために、
どうしても大公国と比べて後回しにされがちであった。
そして人通りの一番少ない検問所が教国への検問所である。
旅人は教国中央大神殿やその他の聖地への巡礼者がほとんどであり、
かつ神官は商売っ気が表向きはないために商人は足を運ばない。
帝国への道も続いてはいるのだがほぼ断交状態の為、人通りはない。
ごくごく稀に迷い込む者が出てくる程度である。検問所もない。
◆
しかし、この教国へ向かう馬車には大勢の乗客が乗り合わせている。
皆、明るい表情の者はいない。それも当然、怪我人が非常に多い。
それも重症の者ばかりで軽症の者が皆無である。
彼らは王国で治療を断念した者達と、その家族や関係者達である。
王国内でも多数の神殿が存在し、数々の治療を受ける事が出来る。
しかしそれは、例えば疫病、冒毒、骨折、内臓の病などなのだ。
四肢欠損、視力の喪失、蘇生といった難易度の高いものではない。
かつ治癒術に長けた神官の絶対数はそれほど多いものでもない。
腕の良い者は当然順番待ちとなり、長く待たされる事も多い。
そして、比較的楽な治癒術とは異なり、高額な治療費が必要だ。
場合によっては一般家庭の年収でも届かない程の。
この馬車に乗り込んだ者達は必死の思いで治療費をかき集め、
王国では望めなかった完治を期待して教国へ向かう者達である。
◆
王国の検問所を通り過ぎ、教国の最寄りの町へ向かう途中。
馬車が急に止まる。いや正確には止まらざるを得なくなる。
街道を倒木が塞いでいるのだ。街道の両側はそれなりに深い森。
道は一本道で、迂回する事も他の町へ向かう事も出来ない。
御者はやむなしと乗客へ倒木を動かす助力を願おうとするが。
両側の森からがさがさと木々をかき分けて怪しい連中が現れる。
彼らはほとんどが剣を持っており、友好的には見えない。
恰好といい面構えといい、盗賊で間違いなかろう。
なるほど、王国と大公国の間では騎士の練度が高くて手は出せない。
都市国家同盟への道は見通しが良く、隠れられそうな場所もない。
しかもいくつもの都市へと道が伸びる為、狙って襲撃が難しくなる。
消去法で教国への一本道が盗賊に網を張られているのか。
印象では最も安全そうな道のりに思えるのだが。
盗賊側は総勢二十人を超えている。森の中にまだいるかもしれない。
対して、この馬車には大型ゆえ三十人近くが乗り込んでいる。
しかしそのほとんどが非戦闘員。中には冒険者もいるが怪我人だ。
盗賊達の要求は単純明快。有り金を全て寄こせ。死にたくなければ。
御者と乗客達は話し合いさせてくれ、と盗賊達へ願う。
「三百数えて待ってやる、さっさと決めてもらおうか」
多分この集団の頭目らしき男が乗客達へ言い放つ。
ここにいるのは皆教国で治療を受ける為、多額の現金を持っている。
しかしその大金は、もう一度集めろと言われても難しいものだ。
中には多額の借金をしてまでどうにか治療費を工面した者もいる。
だが殺されてしまえば結局その金も連中に奪われてしまうだろう。
この場は盗賊達へ有り金を渡すしか助かる道がないのでは。
そう意見がまとまりそうだったその時。
停止している馬車の後ろから、別の一団がやってきた。
◆
「おいおい、横取りたあズルくねえか?俺達が狙ってたんだぜ」
こちらも盗賊のようである。規模は前者と同じく二十人程度。
どうやら考える事はどの盗賊も同じらしい、この街道が狙い目だと。
何言ってやがる、早い者勝ちだ、と言おうとしたのだろう、
最初に出くわした盗賊の頭目の頭を、言い切る前に矢が貫いた。
そこからは盗賊同士の殺し合いである。
人数も互角なら実力も互角なのか、斬りつけるわ殴るわ射貫くわと、
馬車をそっちのけで血飛沫が飛び散りまくる。
御者と乗客達は頭を抱えてひたすら収まるのを耐えていた。
よく馬達が怯えて逃げ出さなかったものである。
しばらく飛び交っていた怒号や悲鳴が聞こえなくなり、
御者と怪我を負っている冒険者がそろりと外を見てみると。
合わせて四十人以上いた盗賊達はほとんどが血の海に沈んでいる。
数人まだ息のある者もいたが、無傷な者は一人としていない。
立ち上がってこちらを襲ってくる気力すらなさそうである。
御者と乗客達は用心しつつも協力して倒木を街道の端に寄せ、
どうにか馬車が通れる隙間を作って盗賊達を尻目に逃げ出した。
生き残った盗賊達には、こちらに追いつける足もない。
彼らはどうにか教国の最寄りの町へとたどり着くことが出来た。
精神的には衝撃を受けつつも、どうにか無傷で。
◆
その、教国の町にて。
信仰を国是とする教国ではあるが、国民全員が信者ではない。
そして、神官を含めて国民全員が善性の持ち主だけではない。
「ふむ、盗賊同士での潰し合いですか」
そう口にするのはこの町の中級神官の一人。相手は上級神官。
「左様。盗賊共と繋がりありと思しき者達へ情報を流し、
それとなく同じ獲物を狙い合わせ同士討ちをさせる。
ああ、同士ではないのか。同類というだけで。
町の外で暴れまわる分にはここは平和でよろしい。
神殿騎士達も手を煩わさずに済むしの」
「しかしながら、我々は戦闘を避けられるものの、
むざむざ町を訪れる者から浄財が奪われる事となりませぬか?」
上級神官の言に疑問を持つ中級神官。
訪れる者の安否などは気に掛ける素振りすらしていない。
「頻繁にであれば問題ではある。神殿に恵みがもたらされぬしの。
しかし全ての者が襲われる訳でもあるまいに。
ある程度は安寧の為の必要経費といったところか。
まあ全てが奪われる訳でもない。
情報料は取り立てておる。前金も後金もな」
彼らは知っている。いや確信している。
救いを求める者達など、いくらでもあぶくの如く湧くことを。
襲われて怪我人が増えても患者増でラッキー、ぐらいの感覚。
教国の神官全てがこんなの、という訳ではないですが。
神殿騎士は教国に於ける騎士団的な位置づけ。
戦闘能力こそ王国の騎士団に譲るが、全員治癒術が使用可能。




