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2-知らない天井と知ってる顔

 白いタイルにグレーの紋様。

 目を凝らせば何かの動物に見えなくもない。


「これが俗に言う知らない......天井......!?」


 びっっっくりした!

 声が、声が知らない声、聞いたこともない声になっている。


「あー...あー...」


 いや聞いたこともないことは無い。

 あの声だ。


 少し前に聞いた。

 この不可思議な事象と関係のありそうなあの声の主と同じ声。


「なにが、何が起こってるんだ...」


 窓から差し込む日差しに眉を顰めながら、周りを見回す。


 先程まで居た暗く、殺風景な六畳の自室から一転。


 まるで貴族の寝殿かのような豪華さ。

 ふかふかなベッドにかけられた天蓋はまるで権威を示すかのように煌びやかで少し目が痛い。

 ほかの家具もひと目でわかる高級品の数々。

 少なくともこんな所は知らないし、知っているわけがない。


 この部屋も、声も。俺のものではない。

 それどころか手も足も自分のものではないと知覚できる。


 なぜなら手足が20代後半に差し掛かった角張ったものではなく、まだ幼く丸みを感じられる四肢になっているからだ。


 不可思議に次ぐ、不理解。

 与えられる情報がまるで完結しない。

 疑問が更に深い疑問を招く状態。


 コンコン


「メルド様、ダーリッチ公爵様がお見えです。入室してもよろしいでしょうか」


 聞き馴染みがない。

 それでいて少し遠慮を感じる声色。


(メルド?ダーリッチ公爵??)


 いきなり聞き馴染みのある名前が飛んできた。


 有り得ない。

 一つの選択肢が浮かんでは消えて、浮かんでは消えて。

 しかしそれしかないと脳はそのループ思考をやめる。


 理由は分からない。

 知らない部屋、知らない手足に恐らく顔も変わっている。

 理解できていることの方が少ないが、わかる。


 自分は今メルド • ダーリッチだということを。


「メルド!!!」


 バンッッッッ


 怒号に近しい声と共に、声の主は入ってくる。

 ゾロゾロとまるでコスプレとは思えない神官のような男たちまで入ってくる。


「起きているじゃないか、心配するから返事はしてくれないか」


 困り顔をした、されど一目見たら忘れないような強面のおじさんに顔を近付けられる。

 深い碧の髪に白のメッシュが入った綺麗なオールバックに、アメジストのような綺麗な紫の瞳。


 覚えている。

 愛する妻を失い、最愛が残した贈り者すらも奪われた悲劇の公爵。

 息子メルドの前だからか気丈に振舞っているが目のクマが日々の葛藤を物語っている。

 メルドの父親


 ダールディ • ダーリッチ


 点と点が繋がる。

 今置かれた環境も、状況も全て。


 早世の天才のストーリーの一文を思い出す。


(ダーリッチ公爵は息子、メルド • ダーリッチの原因不明の病が発症してから毎日、朝の診察を受けさせていた)


 多分今がその時。

 カチカチとパズルがはめられるように、不理解が消えていく。


「公爵様。メルド様が混乱されております。

 倒れていた訳ではございませんし、私にお任せ願えませんか」


 なにかの模様がついている白い帽子を被った、神官のような細身の男がダーリッチ公爵との間に割って入る。


「んむ、すまない少し動揺してしまったようだ。今日の診察を頼む」


 公爵は一歩下がり、騎士のようなものたちに一言二言声をかけている。


「メルド様、顔色が良いように感じますが、本日もお身体の具合を診察させていただきます。

『女神の抱擁を彼の者に、ボディリンク』」


 光の粒子のようなものが身体を包む。


(なるほど、これが魔法。いや正確には神聖術か)


 暖かいそれでいて安心感すら感じるなんとも言えない気分になる。


「!?」


 神官が少し目を見張り、再度同じ魔法を試した後、驚いた表情をして公爵に振り返る。


 公爵も何かを察したのか騎士次いでメイド達まで下がらせる。


「公爵様。メルド様吉報でございます!!メルド様の体内にあった不浄な気が消えております!完治でございます!!」


 まるで自分の事のように喜び子供のようにはしゃぐ神官。


 目を丸く、それでいて壮観な顔つきには似つかない、涙腺の崩壊。


「ま、真か!?それは本当なのだな!?」


「このリュール、女神様に誓って嘘ではありませぬ!!本当に...本当におめでとうございます!!」


「やっと、、やっと打ち勝ったのだな...」


 見知った顔の、見知った泣き顔である。

 違うのは、主人公がどの道筋を辿っても最愛の2人を失い、悲壮に打ちひしがれたあの顔ではなく。

 とても晴れやかな泣き笑顔であった。



 この瞬間脳内で計画した全てを手放して僕は、父上ダールディに抱きついた。


 これ以上悲しませたくなかった。

 この感情は何百の世界線で救えなかった男の父に対する僕のものなのか。

 それともメルドのものなのか。


 僕に一緒に泣いてあげれる権利などあるのか。

 悲しみを、嬉しさを、共に分かち合っていいのかか。


 分からない。

 けどこれが僕の選択。

 この世界にきて初めての、僕の選択だった。

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