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レベル1のキャバ聖女は、愛で魔王を殺せない  作者: しばいぬ


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第4話 毒舌スライムの作戦

 謁見の間での大騒動から一夜明けた王城は、昨日の熱狂が嘘のように静まり返っていた。


 私は国王から与えられた豪勢な一室で朝食をとっていた。テーブルには新鮮な果物と、見た目はいいが味の薄いパン。


(ふぅん。レベル1の私を追放もしないのね。昨日の私の芝居がそんなに効いたのかしら)


『おい。勘違いするなよ。この「アガペ王国」の連中は、お前の演説に絆されただけじゃねえ。こいつらは骨の髄まで「愛」を信心してるんだ。愛を求める者を、愛を理由に追い出すなんて選択肢、最初からあいつらにはねえんだよ。……おめでてーよな』


 脳内に響く毒舌。足元の影から這い出たスライム――マナモンが、窓枠に飛び乗って外を眺めている。


(……お人好しの集まりってわけね。でも、メルロー賢者は言っていたわ。マナ源がない私は数日で砂になって消える)


『普通ならな。だが、お前は消えねえよ。昨日から観察してたが、お前の「マナ源:虚無」ってのは、空っぽなんじゃなくて、底がねえんだ。周囲の視線や関心を強引に吸い込んで、無理やり自分の存在を維持してやがる。……全くいけ好かない体質だぜ』


(ねえ、マナモン。あなた、さっきから偉そうに解説してるけど、結局何者なの? 見た目はただのスライムにしか見えないけど、この世界の魔物なの?)


 私がティーカップを持ったまま首を傾げると、マナモンは体をぶるりと震わせ、赤い眼を私に向けた。


『失礼なこと言うんじゃねえ。そこらの知能のねえ泥団子や、角の生えた脳筋どもと一緒にすんな。俺はこの世界の理が吐き出した「よどみ」だ。……だがな、そんな俺から見ても、お前みたいな人間でこのマナを出す奴に出会ったことなんて一度もねぇ! 普通の人間は、愛だの憎しみだの、何かしらの感情を焚き木にして力を生み出す。だがお前は、自分を飾り立てるという「嘘」そのものを種火にして、周囲の眼差しを己の肉に変えてやがる。……これじゃ人間じゃなくて、歩く呪いの類だぜ』


(そっちこそ、呪いだなんて失礼ね。私はただ自分の価値を最大化するために見せ方を変えているだけよ。嘘も貫けば真実になるの)


『俺がなぜお前に付いているかって? そりゃあ、この世界の愛だのなんだのが満ち溢れた空気が、吐き気がするほど不味いからだ。キラキラ輝く純粋なマナなんて、俺に言わせりゃ胃もたれするほど甘ったるいだけの毒だぜ。……だがな、お前のそのドブよりも濁った「虚飾」のマナは、臭くて不味くて、それでいてどうしようもなくクセになる。鼻を突くような悪臭を放つ食いもんほど、一度味わうと止められなくなるってのと一緒さ。俺にとっては、この上ねえ毒消しなんだよ。このおめでたい国からすりゃ、お前の存在自体が最悪の「害悪」だろうがな。俺が何者かってのは……まあ、そのうち分かる。あるいは、永遠に分からないままお前と地獄へ落ちるか、だ。……魔族かどうかも含めてな』


 死なない。その言葉に私は少しだけ安堵し、ティーカップを口に運んだ。


 窓の外では、一人の掃除係が黙々と落ち葉を掃いている。マナモンはそれを見下ろしながら、ボソリと呟いた。


『……あの掃除野郎、耳だけこっちに傾けてやがる。三下が。小細工が透けてんだよ』


(何の話? それよりマナモン、大事な相談があるわ。私が「虚飾」で生き長らえてるなんて、この国の連中にバレたらまずいわよね。メルロー賢者は私が「愛を知らないから死ぬ」と信じ込んで、必死に延命策を考えてるはずよ。どうしようかしら?)


『決まってんだろ。メルローの爺さんが「愛の指導」とやらを施したおかげで、奇跡的に命が繋がったってことにしとけ。お前が勝手に虚栄心で自走してるなんてバレたら、今度こそ追放どころじゃ済まねえぞ』


(なるほど。賢者様のお手柄にしておけば、彼の顔も立つし、私の「虚無」も隠せる。……で、その具体的な「対策」って何をするの?)


『知るかよ。愛についての説教でもされるんじゃねえか? あの爺さん、お前のために「愛を教える特訓カリキュラム」を組むって息巻いてたぜ』


(……面倒くさいわね。でも、この国ではそれが「聖女の奇跡」の種になるってわけか)


(でも、昨日あんなにガッカリされてたのに、私にそんな影響力あるの?)


『あるだろ。愛を知らない聖女なんて不名誉な事実、国が広めるわけがねえ! 表向きは「愛に溢れた、儚げで尊い聖女様」だ。今頃、街の連中は期待で胸を膨らませてやがるぜ』

(都合のいい話ね)


『さて、その「奇跡」を維持するためにも、お前はこの国で信者を増やしてマナを稼がなきゃならねえ。案はあるんだろうな?』


(ええ。まずは「希少価値」を高めるわ)


『希少価値?』


(あえてしばらく姿を見せず、時折バルコニーから遠くに微笑むだけにするの。民衆の「もっと近くで見たい」という飢餓感を煽る。これ、トップに君臨するための基本よ)


『却下だ! ここはアガペの城だぞ、お前の店じゃねえ。そんな勿体ぶったら、お人好しのこいつらは「聖女様の体調が悪いのか」って本気で心配して、部屋の前がお見舞いの品で埋め尽くされるぞ!』


(……愛が重すぎるわね。じゃあ案その二.徹底的な「個別対応」よ。まずは騎士団の詰め所あたりに陣取って、一人一人の目を見て名前を呼んでいくわ。まずは一番忠誠心の厚そうな層から固める)


『やめとけ! 聖女に名前を呼ばれただけで、こいつらは「女神の啓示だ」って勘違いして、その場で出家するか、そのまま魔王軍に特攻しかねねえ! 奴らにお前の存在は刺激が強すぎるんだよ!』


(……まったく面倒な国ね。じゃあ案その三.まずは「共通の敵」を作るわ。この国にも一人くらい、聖女を疑う嫌われ者の大臣とか軍人とかいるでしょう? その人に私が虐められているフリをすれば、民衆の保護欲を煽れるわ)


『お前、性格の悪さが煮詰まりすぎてねえか!? そんなことしたら、その大臣、翌朝には「聖女様を泣かせた大罪人」として国民全員に石を投げられて再起不能になるぞ!』


 窓の外、掃除の男の手が不自然に止まっている。


「フフッ」


 思わず笑ってしまった。


(いいじゃない。要は、この空っぽの国で「新しい愛のカタチ」を提案して、注目を集めればいいんでしょ? マナモン、あなたは私の横で、ひたすら毒を吐いていなさい)


『チッ。反吐が出るほど強欲な女だ。……だが、お前がこの国のヘドが出るほどに澄んだ空気をかき回すのは確かだろうな。いいだろう、ラブリンコ。せいぜい地獄の底まで付き合ってやるぜ』



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