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青年  作者: すだちポン酢
9/9

花火大会

 河瀬さんと約束した花火大会の当日。

待ち合わせは14:00。

普段使う駅とは逆方向の駅に自転車で向かった。

駐輪場に自転車を停め集合場所の出入口に着いた。

時刻は13:50。

中学時代にたたき込まれた10分前行動が染み付いている。

今考えるとうちの一家は解散したのかも知れない。

詳しい事情は分からないが。

「お、誠志朗。」

右手から声が聞こえた。

同じバイト先の3つ上の先輩、白野優芽(しろのゆめ)さんだった。

「こんちゃす。」

バイトで2回顔を合わせただけだが、そこそこに話はした。

特段印象のある人ではない。

「誠志朗も凪咲(なぎさ)と花火だよね?」

白野さんはやっぱり誘っていたか。

「今日他誰来るかわかります?」

2人きりでなくてよかった。

そうだったら途中で帰る気でいたからな…。

「ん〜。凪咲だけじゃない?ハーレムだね。」

「そっすね。」

二人きりでないのならいい。

どうせ女子は女子で盛り上がるだろうし。

実質1人だな。

「誠志朗は彼女いないんだよね?」

女子はなぜ男子と絡む時それを聞くのか。

その返答で距離感を決めるのか?

「いないっすね。」

これを返すと大体なんでと返ってくる。

そんなのこっちが聞きたいくらいだ。

なぜ彼女がいないといけないのか。

「へぇ〜。なんかいそうな雰囲気だけど。」

意外な返しだった。

「どんな雰囲気っすかそれ。」

単純にそこは気になる。

「ん〜。キョドんないとこ?」

と白野さんは答える。

そんなことか…。

「まぁ、意識もしてないですしね。」

「あはは。ひど〜。」

と言いながら白野さんは僕の肩をたたく。

これがかなりの怒りを込めていることに気づく。

ならちゃんと怒れよ…。分かりづらい。

「興味もないんですよ。恋とか。」

第一、人と関わることもどうでもよくなっている。

こうやって適当に過ごせば波風も立たず安定する。

皆はクズと言うだろうか。

でも僕に言わせれば嘘で誤魔化す皆のほうがよっぽどクズだ。

過去の経験からか、嘘の匂いに敏感になってしまった。

おかげで人と関わるのも一苦労だ。

「拗らせてんな〜。」

今度は二の腕を指でぐりぐりしてきた。

今度は怒っている感じではない。

彼女の中で僕はもう"不合格"なんだろう。

勝手だな…。

つくづく、こういう人のなんと多いことか。

時刻は14:00を2分回っていた。


 僕と白野さんを誘った張本人である河瀬凪咲(かわせなぎさ)は、結局8分遅れでやって来た。

時間にルーズなのは印象に違わない。

「ごめ〜ん。」

謝罪も適当。

なんだかそれが、やけに落ち着いた。


 今日の花火は街中の大きな公園で打ち上げられる。

その公園に場所を取ってみるらしい。

花火の開始までまだ5時間もある。

少々早すぎるのでないだろうか。

「今日は終わったらラーメン食べよう。」

河瀬さんはもう終わったあとのことを考えているし

白野さんはスマホをずっといじっている。


 電車に揺られ1時間弱。

『次は〜牛頭(ごず)〜、牛頭でございます。』

東京の市部の中では最も発展している牛頭市。

その中心駅へ到着した。

「着いた〜。」

河瀬さんはさっきからずっとテンションが高い。

熱でもあるのか?

改札を出たところで白野さんが足を止めた。

「どうしたんすか。」

声をかけると、スマホをいじったまま、

「あ〜、うちやっぱ彼氏と見るわ。」

と、彼女は答えた。

そんなことあるか…。

「…そ。」

河瀬さんはさっきのハイテンションをすっこめて冷めた声で答えた。

「え、なんか冷たくない?」

白野さんはスマホを閉まった。

なんかバチバチしてる…。

「別に。行こう誠志朗。」

そう言って河瀬さんはくるりと身を翻した。

「何?怒ってんの?」

白野さんは挑発するように言う。

「別に。」

河瀬さんは背中を向けたまま答えた。

白野さんはそんな彼女に一歩ずつ近づき、肩に手を置いて言った。

「お前から彼氏とったからって怒んなよ。束縛きつすぎって言ってたぜ。」

河瀬さんの表情がこわばる。

白野さんは手を離して改札の方へ向かっていった。

…。すごいものを見た気がする。

「行こう。」

顔を下に向けたまま、河瀬さんは言った。


 会話は無く、重い空気のまま、打ち上げ場所の公園へ着いた。

「この辺でいっか。」

河瀬さんは適当なところにレジャーシートを広げた。

3人分にしても大きい。

「ほんとは、あのまま元彼も連れてきたかったんだけど、言えなかった。じゃあ一緒にどう?って。」

シートのうえに腰掛けて河瀬さんは言った。

「…なんで?」

僕も荷物を置いて聞く。

「さっき優芽さんが言ってた通り、私束縛きつすぎたんだ。メンヘラってやつ?それで、苦労かけたの、謝りたかった。でも、顔合わせたら、私たぶん、ダメになる。」

体育座りをして、顔をうずめるようにして、彼女は言った。

束縛しないように、適当な態度でいたのか。

盗った盗られたの話はどうでもいい。

「そっか。」

どう返せばいいか、分からなかった。

傷つけるようなことはしたくない。

かと言って庇えば中学時代の二の舞になる気がした。

…。

わからない。人との関わり方も。こういう時の正解も。

「誠志朗も、昔嫌なことあったでしょ。」

河瀬さんは言った。

「…あったよ。」

嘘を吐く気にはなれなかった。

会話をしたかった。

「失恋?」

「…かな。」

僕が恋をしていたのか。それは分からない。

でも、あの子に嫌われていて、それを知って、

とてつもなくショックだった。

少なからず、好意を抱いていたのかな…。

「じゃあ、私たちは仲良くしないほうがいいね。」

彼女も、僕と同じだった。

過去の失敗は繰り返すまいともがきながら、

正解の道は分からない。

間違えない方へ、安全な方へ。

「そうかもね。」

そして、とても寂しい方へ。


 気づけば空は暗くなり、僕は駅から、彼女はどこかから、1人、花火を見上げていた。

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