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青年  作者: すだちポン酢
8/9

トラウマ

 ー誠志朗って、なんで友達作んないの?

彼女はそれをよく言った。


 昼休み。

みんなはグループになって弁当食べる。

僕も自席で弁当を広げる。

最近は弁当作りもうまくなってきた。

「どうしょうもないだろ。」

正面に座る彼女、水瀬叶(みなせかなう)にそう答える。

家柄がバレたのはこっちに引っ越してすぐだから、もう2年になる。

中学3年生の僕の悩み。

それは、彼女が僕にまとわりついて離れないことだ。

「そうかな〜。誠志朗からいけばいい奴ってわかってもらえると思うけど。」

彼女は机をくっつけて弁当を広げる。

周りからの視線を気にする素振りもない。

「前にも言ったと思うけど、僕とつるむとよくないよ?」

学年1の有名人。

それも不名誉な称号でだ。

「私は誠志朗とが楽しいからいいの。」

なんでそんなことが言えるのか、

僕は甚だ疑問だ。


 僕の実家、というか、その時の家は地元でも有名だった。

子供に対して正月に餅を配ったり、大人に対してはお金とか、粉とか配ったりしている。

僕はそれに加担も関係もしていないけれど、親が関係している。

それだけで腫れ物扱いだ。

まあ、当然だが。

「誠志朗はそっちの道に行く気はないんでしょ?」

「そりゃそうだよ。何も教えられてないし。」

彼らが僕を引き取りに来たのは、単純に僕が金に代わる取引だったらしい。

それしか僕と彼らの関係はないし、彼らから何か秘密を伝えられたわけでもない。

「だったら避ける理由ないね。」

非常識。箍が外れている。

なのに、彼女といるのは心地良い。


 学校が終わっても、彼女は僕から離れない。

「一緒に帰ろう。」

この誘いも最初は断っていた。

彼女を思っていたわけではないが、僕といると何かと噂も立ちやすい。

1年生の頃はそれで男子生徒から裏切られたりもした。

あれは堪えた。

そういう目に遭いたくないのもあった。

しかし、何度断っても断っても彼女はついてきた。

それが好意から来るものだと気づくのにそれほど時間はかからなかった。

その好意を無下にする必要もないし、

単純に、うれしかった。

だから最近は一緒に帰っている。

帰り道はただひたすら彼女の話を聞く。

面白くもないクラスメイトの話だ。

彼女は僕と関わっていながら特段嫌がらせを受けるということはない。

僕がそれについて心配しても、

「みんなそんなガキじゃないよ。誠志朗からいってみろって。」

というだけだった。


 その僕と彼女の関係が変わったのはその年の夏休みだった。

夏祭りの屋台を手伝っていたところ、彼女に連れ去られた。

彼女に手を引かれるまま街をゆき、

僕らはそのまま、

夜を明かした。

「誠志朗。好きだよ。」

彼女が囁いたその言葉に、僕は言葉を返せなかった。

彼女を好きか?

そう問われると、答えはNOに近かった。

けれど、彼女と離れたいか?

そう問われても、答えはNOだった。

そんな自己矛盾が僕を黙らせた。


 それから僕らは何度かデートを重ねた。

彼女との時間は相変わらず心地よかった。

それでも、彼女を好きなのかどうかは、わからなかった。


 受験も終わった2月。

「お前、東京に帰れ。」

久しぶりにあった実父にそう言われた。

「え、学校は?家は?」

東京に行く…。

元々僕がここに連れて来られたのは家族が抗争に巻き込まれた時の予備。

東京行きは構わないが…。

「大丈夫だ。あてがある。」

そう言われて連れてこられたのが、

今の家。

亡き母の母。祖母の家である。

どういう関係があったのかは分からない。

家族が巻き込まれる危険も去ったのだという。

そして、どういうつながりなのか、

僕は東京の汐見高校への入学が許可された。

あまり深いところまでは聞かされていないが、

実父やその周りの人がどんな人たちなのかは分かってしまっていた。

それが僕の意思に関係ないことであったとしても、

漏らされる危険性はあると判断されたのだろう。

背中と腹に焼印を押された。


 「そうなんだ…。」

東京行きを彼女に伝えた。

しばらく沈黙が続いた。

悲しんでいるのか。

そう思うとなんだか急に申し訳なくなった。

悲しめない僕に、彼女の時間を使わせたこと、

一緒にいてくれたのに、彼女への気持ちがわからなかったこと、

こう思うことが、相手を想うということなのか。

そんな風に思っていた。

…彼女の次の一言までは。

「やっといなくなってくれるんだ。」

今まで聞いたことのないような口調で彼女はそう言った。

続けて僕に近づいた理由や罵倒を繰り返した。

親が金で関係を持ちたいから仕方なく近づいた。

細いだけの体も弱い意志も悲劇のヒロインぶるところも全部が嫌い。

とにかく早く離れたかった。

同じ高校に来ると知ったときは本気で引っ越しも考えた。

とにかく嫌い。

嫌い。嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い。

ひとしきりの罵倒を終え、彼女は去っていった。

足が震えた。

分からなくなった。

人の本心も、気持ちも、言葉も。

何も信じられなくなったのは、この時からだ。

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