似ている
「祭くんって、恋とかしないタイプ?」
ボウリングの帰り道、加納さんと別れたあと、田沼さんからそんなことを聞かれた。
「恋は、よくわかんない。」
と、僕は答える。
人と関わることさえ、よくわかっていないのだから、
恋なんてしようもない。
「昔好きだった子もいないの?」
恋バナをすると必ずこの質問がくる。
「いない、と思う。」
まず「好きになる」がわからないのだ。
そっか〜。と田沼さんは言った。
彼女と恋バナするには親密度が足りていない気もするが、この班はそういう風に当てられてもおかしくはない。
加納さんも浅井くんも、恋をしている。
「田沼さんは、恋をしたいタイプ?」
傍から見ると彼女はそういうタイプではないように見える。
僕はそこに親近感を覚えた。
「う〜ん、高校に入れば勝手にするものだと思ってたんだけどね。」
田沼さんはそう答えた。
したいしたくないの話ではないのか。
「祭くんは女の子のこと嫌いってわけじゃないんだよね?」
続けて田沼さんは聞いた。
「なんで?そう見える?」
あながち間違いでもない問いにギクッとした。
「いや、なんとなく?目もこっち向かないし。」
…。
確かに、今も僕は彼女ではなく電車の車内表示をみている。
「そうなのかもね。」
一瞬、彼女を見たが、すぐ目をそらした。
この空気感が苦手なのかも知れない。
知っている空気と違うから。
「チャットするから、読んでね。返事もしてね。」
田沼さんが嫌いなのではないと、
この空気が苦手なのだと、言い切れない自分がいた。
「じゃあまた学校でね。」
手を振って、彼女は電車を降りた。
「じゃあね。」
と返す。
この別れの雰囲気は嫌いじゃない。
空いてきた電車の空いた席に座る。
さっきまで肩に何かがのしかかっていたのを自覚させられる。
一気に気が楽になった。
そういえば、チャットするって言ってたっけ。
スマホを開く。
新規通知が1件。
もう来たのか。
『祭くん、修学旅行よろしくね』
田沼さんからの連絡だった。
それだけ?
彼女は何の話がしたかったんだ?
『よろしく』
とだけ返事をして連絡一覧の画面へ戻る。
一番上が田沼さん。
2番目には祖母の名前。
…すっかり忘れていた。
実家…父…とにかくあの人の家に帰らないといけない。
12年の恩義はでかい。
また肩に何かがのしかかってくるのを感じた。
人生ってしんどいな。
ボウリングの疲れと筋肉痛を引きずって、バイトにやって来た。
今日も昼から夜までみっちりお金を稼ぐ。
このレストランはコスパの良さに定評がある。
パスタが1食で500円以内。
平日限定のランチならそこにサラダとスープがつく。
パスタだけでなく、肉料理からスープ料理、幅広いイタリアンをお手頃価格で楽しめるため、老若男女問わず人気だ。
時給も高校生で1300円と高い。
月4回の勤務で大体7時間〜8時間勤務だから、
40,000円近く稼げるのか。
「お〜い、誠志朗!」
17時半になり休憩を終え戻ると、河瀬さんに攻撃された。
「何?」
「ちゃんとインポロ見ろよ〜。」
あぁ。
「いや、あれ月1しか見ないから。」
ほんとは月1回もみてないけど…。
「なんでよ〜。」
「見る意味なくない?」
人が今どこにいるとか何してるとか、どうでもいいだろ。
「えぇ〜。面白いよ?」
河瀬さんは納得していないようだが、
僕はあれを面白いとも楽しいとも思わない。
「そうか?」
適当にいなして済まそうとしていたが、
「今日一緒に帰ろう。」
ドン、と背中をどつきながら河瀬さんは言った。
「暴力的。」
無視して彼女は外へ行った。
21:00。
退勤の時間。
高校生組は河瀬さんと僕だけ。
ほかの高校生はバイトをしていないか、バーガーショップに取られたからしい。
着替えてモールの外へ出る。
もう夏だ。
流石に夜でも暑いな。
「誠志朗。」
後ろから河瀬さんが声をかけてきた。
「土曜、暇?」
土曜日に何かあるのか。
「暇だけど。」
…。これはあれか。
シフト代わってのやつか。
まぁいい。お金は大好きだ。
「花火大会、行かない?」
花火か。そう言えば去年もやってたな。
「いいよ。」
ありえないとは思うが、二人きりでも構わない。
彼女といるのはなんだが楽だ。
そう考えると、似ているのかもしれない。
中学時代に出会った、あの子に。




