幸運少年
夏休みも近づいてきた6月30日。
水曜日の6時間目はロングホームルーム。
「えぇ〜、みんなもご存知かとは思いますが、10月に修学旅行があります。今日はとりあえずその班と班長だけ決めちゃいま〜す。」
丸山先生は教卓に両手を乗せて言った。
そうか。
夏休みが明けるとすぐに文化祭、体育祭、中間試験、修学旅行がやってくる。
二学期は行事が盛り沢山で個人的にも楽しみではあったが…。
班行動かぁ…。
祭誠志朗はでかかったため息をのみ込む。
まぁ、誰からも声がかけられなければ、僕の立ち位置はそういうことだったというだけだろう。
「そんじゃ男子3人グループ5つ、女子4人グループ5つ作れ〜。」
そんな不安をよそに先生の指示でグループ分けは始まった。
あ〜。誰からも声かけられなかったらどうなる?
一人でまわる?
京都と奈良と大阪を?
みんな大好きユニバーサルランドを?
まぁ…いいや…。
「誠志朗。誰かと組んだ?」
動くことを諦めたところ、背中側から声がかかった。
「まだだけど。」
そう返事すると、
「んじゃ、俺らと組もうぜ。」
彼、浅井和輝は言った。
「俺ら」というのは浅井くんと三津家くんだった。
二人してこのクラスの派手グループの中心。
彼らの会話は聞くだけでもう面白い。
どうやったらあんだけ面白くなれるのか、僕には全くわからない。
とにかくすごい2人と組めてしまった。
「女子、誰来んだろうな。」
浅井くんはそっちが気になるらしい。
「いやまぁ、誰でもよくね?」
三津家くんは気にならないタイプなのか。
「誠志朗は誰来たら嬉しい?」
思わぬふりを食らった。
えぇと、女子、女子…。
「あぁ、まだ話したことないから誰にでも一緒だわ。」
ごめんなさい。半分くらい顔と名前が一致しません…。
「確かに、お前自分からはいかないもんな〜。」
浅井くんは笑いながら言う。
「もしかして名前も覚えてない?」
三津家くんも笑っている。
「いや、流石に覚えてる。」
半分くらいはね…。
でも非常識とか思われたくはないし。
「へぇ、じゃああれ誰かわかる?」
三津家くんは一人の女子を指さす。
あれか…。あれはたしか…。
カ行の人、ええと〜。
「加藤さんだろ?」
「加納さんな?」
三津家くんは呆れ笑いを含んで言う。
間違えたか。
「お〜い、やめろよ。」
浅井くんが後ろから三津家くんを叩く。
「こいつ加納のこと気になってんの。」
三津家くんは浅井くんを指差して言う。
「だって可愛いじゃん!わかるよな?誠志朗。」
浅井くんに言われてもう一度加納さんの顔を見る。
確かに。
「確かに、可愛いね。」
「だろお?」
浅井くんは僕を指さして言う。
僕はやっぱわかってるらしい。
「お前加納の顔も覚えてなかったのかよ。」
三津家くんは耳元で聞いてくる。
「まぁ、席遠かったししゃあない。」
「決まったら一旦席つけ。グループでまとまってな。」
丸山先生の号令で僕らは席に着く。
声のでかさだけでゴリ押すスタイル変えたほうがいいと思うけど。
「男子グループはこのくじ、女子グループはこのくじひいてな。同じ数字になったグループで一班。わかった?」
うぃ〜。とそこここから声が上がる。
原始的だなぁ。
「あれ、帆波ちゃんの手作りかな?」
浅井くんは身を乗り出してそんな事を聞く。
「たぶんね。」
あの人あれでいて丁寧だからな。
「帆波先生だろ、ちゃん付けやばいって。」
三津家くんは冷静なツッコミを入れる。
ツッコミというより、マジな指摘っぽいか。
「誠志朗くじ行ってきて。」
浅井くんは僕をパシる気みたいだけど
「最後までのこっときゃいいじゃん。」
余り物には福がある。
僕と言うより彼のための選択だが、
「じゃ俺行くぞ。」
浅井くんはとっととくじを引きに行ってしまった。
しかし…。
「よ〜し。修学旅行はその班で行動な。」
すごい幸運なんだな、彼は。
「よろしく〜。」
右を見ると、口元がニヤけた彼がいる。
加納さんと、同じグループだ。
三津家くんと目が合った。
こいつすごいよな。
彼の目はそう言っているようだった。
ええ本当に。
楽しい修学旅行になりそうだ。




