八十三話 ──夕暮れの桜、微かな希望
夕暮れの伏見区は、街灯に照らされる桜の影がゆらゆら揺れ、街全体に静かな温もりが広がっていた。福田朋広は団地前をゆっくり歩き、胸の奥に微かな軽さと高揚を感じる。手足は障害を抱えて自由に動かんが、日常の中で自然に積み重なった善意や微かな想いが、体に反応として現れつつあった。
団地前の通りで、買い物袋を持った高齢者や通りかかる子どもが少し困った様子を見せる。朋広は杖も車椅子も使わず、障害身体のまま自然に手を差し伸べて助ける。その行為が街の空気に微かな揺らぎを生み、原付やスマホもわずかに光を反応させる。善意が力として少しずつ蓄積されることを匂わせる。
桜並木の奥で桐生さくらの影が揺れ、チョーカーや髪飾りが夕日の光を受けて微かに輝く。天音や美琴も通り、ブレスレットやペンダントの光が揺れる。胸の奥に軽さや柔らかさが広がり、日常の善意や微かな好意が少しずつ力として蓄積されつつあることを体感する。
原付やスマホの光も一瞬強まったように見え、もし今変身すれば20才姿で力を発揮できる兆しがあることを匂わせる。しかし、体感したその瞬間も、すぐに元の59才障害身体に戻る。手足の感覚や胸の軽さも日常の身体感覚に引き戻されるが、微かな高揚と体調の良さは確実に残っていた。
「…夕暮れの桜も、なんやかんやでええ感じやな。今日は身体が随分楽やった気がする」
独り言をつぶやき、朋広はゆっくり歩き出す。夕暮れの桜と微かな光の反応が、日常の善意や想いの積み重ねを示し、知らぬ間に20才姿への変化が着実に進行していることを静かに告げていた。




