表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/431

第七話 ――初めての20才姿の兆し

雨の夜がようやく明け、病室には柔らかな朝の光が差し込んでいた。

窓に残る雨滴が、まだ湿った街の匂いを運ぶ。59才の姿の福田朋広は、ゆっくりと目を覚ます。体の痛みは残っているが、胸の奥で何かが静かにざわめくのを感じた。


「……おや、なんやこれ、新しい機種か?」

天然に呟きながら手元のスマホを操作する。昨日の事故のことは、まだ朧げな夢のようで、思い出せない。原付やスマホは、雨で壊れたはずなのに、まるで何事もなかったかのように元通りだ。


雨音はまだ窓を叩いていた。柔らかな光としずくが、病室の壁にゆらゆらと模様を描く。そんな中、病室の扉がゆっくりと開く。


「福田はん、大丈夫どす?」

明るい京都弁とともに現れたのは、高瀬みのり。黒髪をひとつに結んだ、21才の女性だ。制服ではなく、私服の姿が自然で、近所の知人が心配に来た、そんな雰囲気が漂う。


「おお、みのりちゃんか。わざわざ悪いなぁ」

「そんなん気にせんでええよ。向島で倒れはったって聞いたら、そら心配しますやん」

気さくな笑顔に、朋広は思わず頬を緩める。


「甘いもんとか、いるか?」

「はは、気持ちだけで充分や」

短いやり取りの中にも、自然な安心感が漂った。


そのとき、扉の隅から小さな声が聞こえる。

「……あ、あの……し、失礼します……」

控えめに足を踏み入れた少女の胸元には「桐生さくら」と書かれた名札が光る。黒い制服の上着にリボン型チョーカー。震える手で、朋広のスマホを差し出した。


「おお、わざわざありがとうなぁ」

「い、いえ……お返し、だけ……」

さくらの声はか細く、表情も読み取りにくい。みのりが横から興味深そうに覗き込む。


「えらい可愛らしい子やなぁ。福田はん、知り合い?」

「いや、初めて会った思うわ」

答えながらも、朋広の胸に微かな違和感が走る。

(……なんやろ? 聞いたことあるような声や……)

記憶は霧のように流れ、手の届かないところに消える。


さくらが去ると、みのりがぽつりと言った。

「なんや、儚げな子やったねぇ。ええ子そうやけど」

「せやなぁ……」

雨上がりの空気と共に、静かに病室を満たすのは微かな桜の香り。朋広は、無意識に胸元の蕾のような感覚を確かめる。


その瞬間、原付やスマホに微かに桜模様の光が反応した。ぼんやりとした光は、主人公にはまだはっきりと見えない。しかし、読者には何か特別な力の兆しとして伝わる。監視者は息を潜め、静かに見守る。


「この者に核を……」

声なき声が夜明けの光を震わせ、倒れた影に触れた瞬間、通常は装具に融合するはずの力の一部が、なぜか原付とスマホに流れ込む。

監視者も思わず息を飲む。

「人に融合するとは……」


日常の中に潜む小さな奇跡。その兆しを、まだ59才姿の朋広は気づかない。天然な性格と鈍感さが、善意の行動を自然に導く。

しかし読者には、後に起こる変身や桜の力、ハーレム要員たちとの繋がりの伏線として、静かに響く場面となった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ