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五十四話 ──桜色の午前、穏やかな交差
午前の光が伏見区の街を柔らかく染める時間、福田朋広は団地の周囲をゆっくり歩いていた。手足は自由に動かんけど、胸の奥はほんのり温かい感覚で満たされる。
路地の角を曲がると、桐生さくらと高瀬みのりの姿が見えた。桐生さくらは微笑みながら何かを話している。高瀬みのりも軽く頷く。その光景を見て、朋広の胸には静かな安心感が広がった。
「ほう、ええ天気やなぁ」
朋広は独り言つつ、微かに桜色に光るスマホを手に取り、原付を横目で眺める。誰も気づかんが、善意の力が少しずつ積み重なっとる。
さらに歩くと、美琴が通り過ぎる姿も見える。すれ違うだけやけど、目線がほんの一瞬合う。こうしたささやかな交流の積み重ねが、街全体に静かに温かい雰囲気を作っていた。
桜の花びらが朝の風に舞い、建物や路地に柔らかく落ちる。その一つ一つが、福田朋広と周囲の人々の距離を微かに縮め、穏やかな交差点のような時間を作り出していた。
読者にだけ、監視者の視線が静かに二人の関係や善意の流れを見守っていることをほのめかす。




