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三十七話 ──助けを求める声

通知に導かれるように、朋広は歩いていた。


(徒歩二分って書いとったけど……どこや?)


スマホを見ようとするたび、画面が微妙に暗転し、

肝心な表示だけ曖昧にぼやける。


――核の力が、まだ解放準備段階だから。


だが、朋広にはそんな理屈は分からない。


(なんやねんこのポンコツ……)


ぼやきながら曲がった先で、

彼の視界にひとつの影が入った。


小さな公園。

まだ朝の冷たい空気が漂うベンチのそばで、

女の子が一人、しゃがみ込んでいる。


制服姿。

髪は肩まで。

声を上げて泣いているわけでもないが、明らかに困惑している様子。


「おーい、大丈夫か?」


声をかけると、

少女はビクッとして振り返る。


「あ……す、すみません……」


「どうしたん?」


「カバンの肩ひもが切れちゃって……学校行けなくて……」


見れば、確かに革の肩ひもがちぎれている。

今の子にしては珍しい、少し古いタイプのカバンだ。


(うーん……直せんこともないか)


朋広はしゃがみ込み、手慣れた動作で破れを調べる。

トラック時代、応急処置や工具仕事は日常茶飯事だった。


「糸と針あれば、ちょい待ったら直したるけど……」


「ほ、ほんとですか……?」


少女の目に光が戻る。


「そやけど今は持ってへんな。みのりちゃんとこ行けば売っとる思うけど……」


「歩いて戻るのは……ちょっと……」


少女は視線を落とす。

足首がわずかに赤い。

どうやら捻ったらしい。


(なるほど……そら動きたないわな)


朋広は立ち上がる。


「ほなワイが買うてくるわ。ここで待っとき」


「そ、そんな……!」


「ええって。近いし、困っとるやつ見たらほっとけへん性分やねん」


本音すぎるほどの本音。

少女は一瞬だけ目を丸くして、それから小さく笑った。


「……ありがとうございます」


朋広は軽く手を振って歩き出す。

その背中を見つめながら、少女はぽつりと呟く。


「やっぱ……優しい人だ……」


ほんのりとした好意。

そして――その瞬間。


少女の胸元で揺れる

小さな飾りが、淡い“灰桜色”に一瞬だけ光った。


読者にしか分からない変化。

後々、ある出来事の伏線となる“微弱な反応”。


朋広は気付かず、ただ少し早足でコンビニへ向かう。


(けど……なんやろ。誰かに背中押されてる感じやな……)


どこかの遠い影が、

確かに“見ている”。


その気配すらも、

朋広だけは今のところ感じ取れない。


だが、世界は確かに、

彼に向けて動き出していた。


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