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三十話 ──黄昏の交差点
夕暮れの街角、信号の赤が滲む雨上がりのアスファルトに反射する。
福田朋広は原付をゆっくりと押しながら歩いていた。手足の感覚はまだ完全ではないが、風を受けて心地よさを感じる。
交差点の向こうで、制服姿の朝霧こはるが立ち止まり、迷っている様子。
「こんなところで……大丈夫かいな」
朋広は自然に声をかける。こはるは少し驚いた表情を見せるも、安心したように微笑む。
その傍らに、街灯の影が長く伸び、微かに桜の花びらのような光がちらつく。
読者にはわかるが、朋広にはまだ認識できない。
原付やスマホの桜模様の光も、ぼんやりと周囲に漂うだけ。
「信号待ち、長いな……」と朋広はつぶやき、ぼんやりと空を見上げる。
その視線の先には、街の片隅で微かに揺れる監視者の影。
静かに、しかし確実に、必要な核を与えるべき存在を観察している。
交差点を渡りきった時、朋広の胸には不思議な温かさが広がる。
自然に手を差し伸べる心、困っている人を助ける意志――
それらが微かに桜の力と共鳴して、世界の一角に小さな善意の光を灯す。




