二十七話 ──雨上がりの小径
午後の日差しが街を柔らかく照らす。
福田朋広は、団地前の小径を原付でゆっくり走っていた。
まだ体の動きは完全ではないが、自然と人助けの心が働く。
小径の角で、荷物を抱えた女性が自転車と絡まりそうになり、倒れそうになる。
「おおっと!」
朋広はとっさに手を差し伸べ、女性を支える。
「……ありがとうございます」
礼を言う女性の瞳に、一瞬だけ昨日の夜の光景を思わせる光が宿る。
その横で、高瀬みのりが傘を片手に見守る。
「福田はん、怪我はしてへん?」
「うん、大丈夫や」
短いやり取りだが、自然な温かさが交わる。
遠く、街灯の影や屋根の上、通りの端には微かなシルエットがちらり。
見守る存在は、今日も静かに息を潜めている。
その視線は、まだ気づかぬ朋広に核の片割れを与えようとしている。
朋広の原付のライトやスマホにも、昨日の夜の余韻のような淡い桜模様が揺れる。
本人にはただの光の反射のようにしか見えない。
通りを渡る子供たちに声をかける。
「気ぃつけや、滑るで!」
子供たちは笑顔で手を振り、雨上がりの小径を無事に渡る。
こうして、街の中で積み重なる小さな善意は、誰も気づかぬうちに世界を少しずつ温めていく。
微かな桜模様と、見守るシルエット。
まだ誰も、その力の本質には気づかない。




