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二百四十一話ー 図書館の夜と桜の余韻
創作ラウンジの一角、福田朋広はノートに向かい、ペンをゆっくり走らせていた。外の夜風は窓の隙間から入り込み、ページをかすかに揺らす。棚の奥から聞こえる足音に、ふと顔を上げると、響木しずくが資料を抱えて通り過ぎようとしていた。
「おっと、手が滑っとるな」
朋広がさりげなく手を差し伸べると、体に軽い熱が広がる。短時間20才姿が自然に発動し、動作は滑らかで軽やかになる。しずくは驚いたように目を見開き、少しだけ微笑む。その表情に、桜模様の光が柔らかく揺れる。
朋広は気にすることなく資料を支え、「大丈夫か?」とだけ声をかける。しずくは小声で「ありがとうございます」と返し、静かに歩き去る。
ラウンジの隅で、別の女性がちらりと視線を送る。その揺らぎで桜の光がさらに舞う。誰も理由は語らないが、読者だけがその桜模様の反応が装具によるものだと推測できる。
朋広は再びノートに向かい、静かにペンを動かす。夜の図書館は穏やかで、桜の光がふわりと空気を包み込み、善意の連鎖がひそやかに広がっていくのだった。




