182/472
百八十二話 — 月待庵・早朝の執筆 —
早朝、月待庵はまだ静寂に包まれていた。
外の街灯が雨上がりの路面に柔らかく反射する。
朋広はノートPCを開き、執筆の続きを始める。
「さて…今日はどこまで書こか」
背後で小さな光が揺れた。
桐生さくらの首元の桜装飾が淡桜色で、ふわりと弾む。
朋広が椅子を少し動かすと、光が小さく跳ねた。
さくらは軽く会釈して、静かに奥の棚へ歩いていく。
*
窓際の席では、朝霧こはるが資料を整理している。
スマホチャームの桜が薄桃色に光り、微かに脈打つ。
朋広が資料を手渡すと、光が小さく揺れ、こはるは視線を資料に戻す。
*
カウンター奥では、鴉谷りつがカップを手に座る。
首元のピック型ペンダントが濃桃桜色に光り、微かに揺れた。
朋広が椅子を戻すと、光がふわりと弾む。
*
三色の桜の光——淡桜、薄桃、濃桃桜——が店内に漂い、
互いに微かに重なり合いながら揺れ続ける。
朋広は文字に集中し、独り言をつぶやく。
「……なんや、今日は身体が軽い気ぃするなぁ」
誰も気づかない。
ただ桜の光と揺らぎだけが、静かな早朝の店内に残った。




