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百七十八話 — 月待庵・閉店後の静寂 —
閉店作業が終わった月待庵、店内はほのかな灯りだけが残る。
朋広は資料をまとめ、椅子を整える。
「ふぅ…今日はここまでか」
背後で小さな光が揺れた。
桐生さくらの首元の桜装飾が淡桜色でふわりと弾む。
朋広が椅子を少し動かすと、光が小さく跳ねた。
さくらは会釈だけして、静かに奥へ歩いていく。
*
窓際の席では、朝霧こはるが資料を整理している。
スマホチャームの桜が薄桃色に光り、微かに脈打つ。
朋広が書類を手渡すと、光が小さく揺れる。
こはるはすぐに資料に視線を戻す。
*
カウンター奥では、鴉谷りつがカップを手に座る。
首元のピック型ペンダントが濃桃桜色に光り、微かに揺れる。
朋広が椅子を戻すと、光がふわりと弾む。
*
三色の桜の光——淡桜、薄桃、濃桃桜——が店内に漂い、
互いに微かに重なり合いながら揺れ続ける。
朋広は文字に集中し、独り言をつぶやく。
「……なんや、今日は身体が軽い気ぃするなぁ」
誰も気づかない。
ただ桜の光と揺らぎだけが、閉店後の店内に静かに残った。




