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百七十五話 — 団地10階・夜の階段室 —
深夜の団地10階、階段室は静けさに包まれていた。
朋広は郵便物を片手に、自室へ向かう。
「さて…今日ももう終わりやな」
踊り場の角で、かすかに光が揺れた。
桐生さくらの首元の桜装飾が淡桜色で、小さく弾む。
朋広が落ちていた封筒を拾い手渡すと、光がわずかに跳ねた。
さくらはうなずき、静かに奥の廊下へ歩いていく。
*
踊り場の反対側では、花房るりが本を抱えて立ち止まる。
扇子ストラップが白桃色に揺れ、朋広が掲示板を整えると光が小さく弾んだ。
「落とさんようにな」
るりは小さくうなずき、また書類に視線を戻す。
光は揺れ続ける。
*
さらに奥では、雛菊ゆらが指輪を握りしめ立つ。
薄紅色の桜が波打つように光る。
朋広が階段の扉を閉めると、光が小さく揺れ、廊下全体に微かに広がった。
*
三色の桜の光——淡桜、白桃、薄紅——が階段室に漂い、
中心に沿って静かに揺れ続ける。
朋広は手すりを握り、独り言をつぶやく。
「……なんや、身体が軽い気ぃするなぁ」
誰も気づかない。
ただ桜の光と揺らぎだけが、深夜の階段室に静かに残った。




