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百七十一話 — 団地10階・深夜の階段室 —

団地10階の階段室は、わずかに外気の匂いを含んだ静寂が漂っていた。

朋広は手に郵便物を持ち、階段を降りる。


「今日も長かったな…」


踊り場で、かすかな光が揺れる。

桐生さくらの首元の桜装飾が淡桜色で、静かに弾む。


朋広が落ちた封筒を拾い手渡すと、光は小さく跳ねた。

さくらはうなずき、奥の廊下へ歩いていく。



踊り場の反対側、花房るりが本を抱えて立つ。

扇子ストラップが白桃色に揺れ、朋広が掲示板を整えると光が一瞬弾む。


「落とさんようにな」


るりは小さく頷き、書類に視線を戻す。

光は揺れ続ける。



さらに奥では、雛菊ゆらが指輪を握りしめ立っている。

薄紅色の桜が波打つように光った。


朋広が階段の扉を閉めると、光が小さく揺れ、廊下全体に微かに広がる。



三色の桜の光——淡桜、白桃、薄紅——が階段室に漂い、

中心に沿って静かに揺れ続ける。


朋広は手すりを握り、足元を見ながらつぶやく。


「……なんや、身体が軽い気ぃするなぁ」


誰も気づかない。

ただ桜の光と揺らぎだけが、静かな夜に残った。


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