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百六十六話 — 月待庵・深夜の書き物 —
深夜、月待庵の灯りは暖かく、窓の外は静まり返っていた。
朋広はいつもの席に座り、ノートPCを広げて執筆を始める。
「さて…今日はどこまで書こか」
背後でわずかな光の揺れ。
桐生さくらの首元の桜装飾が、淡桜色で小さく弾んだ。
朋広が椅子を少し引いただけで、装飾の光がふわりと揺れる。
*
窓際の席では、朝霧こはるが資料を広げている。
スマホチャームの桜が薄桃色に光り、指先で少し揺れる。
朋広が資料を手渡すと、チャームの光が小さく跳ねた。
こはるは無言で資料に視線を戻す。
*
奥のカウンターには鴉谷りつがカップを手に座る。
首元のピック型ペンダントが濃桃桜色に光り、微かに脈打つ。
朋広が椅子を戻すと、ペンダントの光が小さく弾んだまま揺れる。
*
店内に漂う三色の桜の光は、淡桜、薄桃、濃桃桜。
揺れはわずかに重なり合い、空気全体に静かに広がる。
朋広は手元の文字に目を落とし、つぶやいた。
「……なんや今日は、身体が軽い気ぃするなぁ」
誰も気づかない。
ただ桜の光と揺らぎだけが、深夜の店内に静かに残った。




