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百六十二話 — 月待庵・夜の静寂と三色の光 —

雨はすっかり上がり、月待庵の窓からはしっとりとした夜の街が見える。

朋広はいつもの席に座り、ノートPCを広げた。


「ふぅ…今日は筆の乗りがええかもな」


カウンターの向こうでは、雛菊ゆらが静かにお茶を運ぶ。

手首の指輪が夜の灯りを受け、淡く透き通る薄紅色で揺れた。

彼女は無言でお盆を差し出す。指輪の光だけが、微かに波打つ。


朋広が受け取り、少し場所を移動して置いた瞬間、

指輪の桜の光が小さく弾むように揺れた。



窓際には葵月すみれが、ピアノ鍵チャームをかばんから取り出して整理している。

鍵の形の小さな装飾が、柔らかな深い宵桜色に光る。

朋広が椅子を直すために少し腰をかがめると、

チャームの光がさざ波のように揺れた。


「お、ここも整理できとるか」


すみれは微かに身をひるがえし、

チャームの光はふっと落ち着く。



さらに奥の席には鴉谷りつがカップを手に座っていた。

首元のピック型ペンダントが、濃桃桜の光を反射して小さく脈打つ。

朋広が資料を拾って渡すと、

ペンダントの光がわずかに跳ねた。


りつは軽く手を伸ばして受け取り、

光はすぐに落ち着く。



店内の空気は、三つの色の桜が静かに舞う。

薄紅、深宵桜、濃桃桜。

それぞれ微妙に揺らぎ、重なり合う瞬間がある。

朋広は気にも留めず、椅子に戻りノートを打ち続ける。


「……なんや、身体軽い気ぃするな」


雨上がりの月待庵の静寂に、桜の光だけが穏やかに漂っていた。


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