第十六話 ─桜原付の初出動─
朝の空はまだ灰色だが、雨はすっかり上がっている。福田朋広は団地の階段を下りながら、昨日の救助の余韻を思い返す。
「……あの子、無事で良かったわ」
呟きながらも、体はまだ完全ではない。少しぎこちなく歩きつつ、団地前の通りを見渡すと、遠くの交差点で小さな騒ぎが起きている。
スマホが振動する。通知は淡い光を放ちながら文字を浮かべる。
『救助必要、約五キロ先』
「ほう……こら、また大変やな」
天然のノリで呟きつつ、原付を取りに向かう。桜模様が羽織や着物にはまだ現れないが、原付の桜模様がかすかに揺れて光る。
現場に到着すると、立ち往生していたのは女子高生、響木しずくと旅館仲居の御影なぎさ。
「大丈夫ですか!」
「え、はい……ありがとうございます……」
体を支えつつ、自然に導く朋広。二人の視線は主人公の善意に触れて微かに揺れる。
「……おお、落ち着け、ゆっくりやで」
しずくが少し怯えているのを見て、ノリボケツッコミ気味に声をかける。
「なんやその顔……怖がらんでええって」
ほんの一言でも、彼女たちの中で桜光が微かに反応する。読者には光が揺れる描写として映る。
無事に安全地帯まで送り届けると、しずくと御影はほっと笑う。
「ありがとうございました!」
「せや、気ぃつけや」
短い会話の中で、主人公の自然な親切心や善意が周囲に伝播していく。
帰路、団地へ向かう途中、向島のコンビニ店員・高瀬みのりが偶然通りかかる。
「福田はん、今日も忙しいなぁ」
「いや、ちょっと運がよかっただけや」
気さくなやり取りの中で、微かに桜光が揺れる描写が入る。
夜、団地に戻った朋広は窓辺に座り、遠くの夕焼けを眺める。
「……毎日が、こんな感じやったらええのにな」
羽織や着物にはまだ桜色は見えないが、読者には原付やスマホの光で蓄積される桜光の存在がわかる。次の変身の伏線として静かに示される瞬間。




