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第十四話 ─微かな桜光のさざめき─

午後の光が団地の廊下を柔らかく染める。福田朋広はベランダから外の景色を眺めていた。雨上がりの街には小さな水たまりが光を反射し、春の香りが漂う。


「……ほんま、ええ季節やな」

呟きながら、ポケットのスマホを確認する。通知はない。だが、体は自然に緊張を解きつつ、手足の微妙な違和感を感じるだけ。


その時、階下から楽しげな声が聞こえる。高校生の鹿島りん(17)が友人と出かける準備をしている。

「おはようございます、福田さん」

軽く会釈するりんの姿に、朋広は思わず微笑む。助けたわけではない、ただ日常の中で人の善意に触れるだけで、桜光がごくわずかに揺れる。


廊下を歩きながら、声をかけてきたのは大学院生・雪村かぐや(24)。歴史の本を抱えている。

「福田さん、今日も元気そうですね」

「せやな、ちょっと身体痛いけどな」

何気ない会話、些細な挨拶も、主人公の自然な人助けと親切心に応えて桜光が微かに波打つ。読者には小さな変化として認識できるが、本人は全く気づかない。


その後、通りを歩くと、近所の小学生が転びかけている。朋広は迷わず手を差し伸べ、少年を助ける。

「おお、しっかりせなあかんで」

「ありがとう、おじさん!」

微笑みながら見送る朋広。その背後で原付とスマホに微かな桜光が漂う。本人には視認できない光は、読者に「蓄積される力」の兆しとして映る。


帰宅すると、団地の廊下で偶然、声優志望の白鳥つむぎ(20)が荷物を運んでいた。

「福田さん、手伝いましょうか?」

「おお、ありがとうな」

手を貸すだけの短い交流。しかしこれも桜光の微変化として読者に示される。


夜、部屋の中で朋広は原付のミラーに映る光をぼんやりと眺める。桜模様はまだ薄く、羽織や着物の変身には至らない。

(……なんや、光っとるんか?)

一瞬の疑問はあるものの、彼の鈍感さがそれ以上の意識を阻む。


だが読者にははっきりわかる。力は確実に蓄積され、次の変身の準備が静かに整いつつある――これが桜光の微変化、そして後の20才姿への伏線となる。


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