百五話 ──短時間変身、桜の街に溶ける
午前の光が伏見区の街を柔らかく包み、桜並木の花びらがゆっくり舞う。福田朋広は団地前を歩き、胸の奥にわずかな軽やかさを感じる。手足は障害を抱えて自由ではないが、日常の善意や人助けの積み重ねが装具と体に反応をもたらしていた。
商店街で荷物を持ち上げる人を手助けすると、原付の桜模様やスマホの光がわずかに強まり、羽織の桜模様も揺れる。街に舞う桜の花びらが増えたように見え、善意の蓄積が装具の機能強化や短時間の20才姿変身を支えていることを体感で示す。
数分間だけ、胸の奥に20才姿の感覚が流れ込み、手足の動きが滑らかになり、街の人々への自然な手助けがさらに軽やかにできる。しかし時間が経つと元の59才障害身体に戻り、体感としての柔らかさだけが残る。
桜並木の奥で桐生さくらの影が揺れ、チョーカーや髪飾りが朝の光を受けて微かに輝く。天音や美琴のアクセサリーもわずかに反応する。光や舞いの増大はあくまで主人公の善意に比例しており、好意が直接的に装具を強化するわけではない。
「…ほんのちょっとやけど、身体が軽く感じるな」
独り言をつぶやき、朋広はゆっくり歩き出す。桜の舞いや光の増大が、日常の善意の積み重ねで20才姿への準備が着実に進んでいることを静かに告げていた。




