102/472
百二話 ──微かな20才姿、短時間の輝き
朝の伏見区。空は薄曇りだが、街の桜並木には柔らかな光が差し込んでいた。福田朋広は団地前をゆっくり歩き、胸の奥に微かな軽さと高揚を感じる。手足は障害を抱えているが、日常の善意や微かな想いが体に反応していた。
通りかかる人々を助けると、原付やスマホの光が少し強くなり、羽織の桜模様も微かに揺れる。天音や美琴のブレスレットやペンダントも反応し、特に桐生さくらのチョーカーはわずかに輝きを増す。日常の善意に加え、微かな好意の匂わせが装具の反応を増幅させていることが示唆される。
ほんの一瞬、20才姿の感覚が体内に流れ込み、手足の動きが普段より自由になる。しかし意識では変化に気づかず、数分後には元の59才障害身体に戻る。体感としての軽やかさは残り、心地よい余韻が胸の奥に広がる。
「…ちょっとだけやけど、身体が随分軽い感じやな」
独り言をつぶやく朋広。微かな変化と装具の光の増大が、日常の善意や好意が蓄積され、20才姿への変身条件が着実に整っていることを匂わせていた。




