第1章 第1話:桜灯の微風 I
春の夜、雨がしとしとと降る時間。京都市伏見区向島の団地から久御山への通勤途中、朋広は原付を慎重に走らせていた。
胸ポケットの『福田』の刺繍が小さく光る。事故前のいつもの通勤ルート、雨と夜の街灯の影が混ざる中、体が自然に緊張を帯びる。
前方に倒れかかる影。反射的にブレーキを踏む。
雨に濡れたシルエットは若い女性。制服の輪郭がかすかに見えるだけで、年齢や詳細は読者に匂わせる程度。
周囲にはコンビニ内、ガソリンスタンド、団地の通路、各部屋のシルエットがあり、異様な雰囲気を漂わせる。
衝突は避けられず、激しい痛みが全身に走る。原付は横倒し、スマホは割れ、雨に光る破片が街灯に反射する。
倒れた女性を抱きかかえた瞬間、作業着の胸ポケットに『福田』の刺繍を見つける。彼女は助けてもらったことを誰にも言わず、静かに立ち去る。
読者だけが感じる存在――監視者。普段は気づかないが、この夜、異様な視線を送り、核を与えるべき人物を観察している。
本来はアクセサリーに融合する核が、なぜか朋広の身体に溶け込む。監視者は思わず息を飲む――予想外の変化。
その核の一部は目覚める前に原付とスマホに流れ込み、自然に修理を施す。
病院で目覚めた朋広。痛みは残るものの、原付もスマホも元通りになっている。
衣装や原付にはさりげなく桜模様が浮かび、胸の蕾も微かに桜色に揺れる。
体が自然に反応して人を助ける朋広の姿に、読者には薄く未来の重要人物との心のつながりが匂わせられ、伏線として作用する。




