03 魔力波形
___帰還したその夜、ジュリオは新たな記録を残していた。
《ダンジョン奥地にて、封印魔法が施された空間を発見。手をかざすと封印解除の魔法陣が反応した。
最奥にはイーグルの幼体が封印されており、人間との"自然同調"も確認された。
イーグルの幼体もしくはダンジョンに認められた物のみが入れる空間である可能性。
イーグルの幼体は"神の従魔"との関連性があると考える。》
彼の筆は止まらない。世界の秘密も、未知の生物も、彼にとって全てが自分の好奇心を満たすための興味の対象だった。
そんな主人の様子を、ルドは窓辺から静かに見つめていた。
ルド「"自然同調"に"神の従魔"か…」
ジュリオ「好奇心が掻き立てられるよね。今まで"神の従魔"との関連性があると考えられてきた魔獣や、それを示唆するであろう文献が見つかっては消え、見つかっては消えの連鎖だったからね。」
"自然同調"は正規の従魔契約をせずに人と魔獣が従魔契約を結ぶことである。従魔契約とは本来、人と魔獣が同意の元に行われるものである。身体的接触により互いの魔力を一時的に交換しながら、人が魔獣に名付けを行うことで成立する。
しかし、今回の例では身体的接触こそあれど、魔力の交換も名付けも行われていないのだ。
"自然同調"が可能なのは、『主と聖従魔』『転移者と魔獣』だけだとされている。しかし、ジュリオは転移者ではないのに加え、聖従魔はルドであることに疑いようはない。となると、あのイーグルの幼体が特殊個体であるとして話を進めることが妥当である。
そして、"自然同調"ができる特別な個体となると"神の従魔"という存在は実際に存在し、それがあのイーグルの幼体である可能性は否定しきれない。また、"神の従魔"でないにしろ、それへの手掛かりとなる可能性は大いにあるのだ。
ルド「あぁ。結局全て噂にすぎなかった。だが、今回の一件で"神の従魔"というものが存在する可能性が高まったのは事実だ。"自然同調"なんて、そう簡単にあっていいものでは無いからな。」
ジュリオは小さく笑い、机に広げた地図に新しい印をつけた。その印のひとつに、『神の従魔・封印区画』と書き込んだ。
___翌朝、早速ジュリオは研究室で謎の生物についての研究に着手し始めた。
イーグルとしても、イーグルの幼体としても小さすぎる生物。まずはそこに着目し、魔力波形を測ることにした。
それがジュリオたちと運命を大きく左右する結果になるとも知らずに。
ジュリオ「…イーグルじゃない。」
ルド「…そうか。」
ジュリオ「なんだ、ルド。分かっていたのかい?」
ルド「いや、分かっていたわけでない。ただ、"神の従魔"の可能性が浮上した時点で、他の魔獣たちと同じと考える方が安易だろう。」
その答えにジュリオは目を丸くして驚いた後、目を細めて顔を綻ばせた。
ジュリオ「流石だな。」
ルド「毎回研究に付き合っているのだ。そこが分かるほど愚鈍ではない。」
ジュリオ「いや、誇るべきだよ。いくら経験を積んでも、そういう思考にたどり着かない者は五万といるからね。」
ジュリオは謎の生物の魔力波形の記された紙から視線をそらさぬまま、手で探るようにして新たな資料を引っ張り出した。
ジュリオ「まぁ、それも仕方のないことだけどね。」
ルド「ふむ…。人は己が理解できないものを忌み嫌いと言うやつか。」
ジュリオ「あぁ。その点、ルド含めた魔獣は自身の理解の範疇を超えていても、理解しようと努める。別の角度から物事を見ることに特化している。それは素晴らしいことだよ。」
ルド「別の角度から物事を見れるということに関しては些か疑問だな。」
ジュリオ「何故だい?」
ルドはジュリオの後ろに歩み寄り、頭に顎を乗せながら資料に目を通す。
ルド「魔獣と人間で見ている角度、捉え方が違うだけなのだ。我らが特別なのではない。それぞれが特別であるからこその、それぞれの着眼点と言うやつなのだろう。」
ジュリオ「…ふむ、一理あるかもね。」
ルド「我からすれば、主の考え方や物事の捉え方の方が画期的に感じるのだ。」
ルドの声にはジュリオへの敬愛と尊敬の念が乗せられていた。
しかし、ジュリオはそれを知ってか知らずか、優しく微笑んだ。
ルド「それで、画期的な視点を持つお主はどう考える?」
ジュリオ「そうだね…」
机上に開かれた資料は、魔獣の魔力波形について詳しく記載されたもの。
魔力波形は種族が同じであれば、基本的には同じ波形となる。魔力の強さに差があった場合にも、魔力波形への影響は否定される。つまり、魔力波形さえ測ればその生物の種族がなんであるかが分かるのだ。
しかし、聖従魔だけは同じ種族であっても多少の差が出る。
それは聖従魔は人の魂の欠片であることに起因する。聖従魔は普通の魔獣とは異なり、主と魔力を親和させている影響で、魔力波形が元の魔獣から人へ少しずつ酷似していく。魔力親和率が高いということは、それだけ人の魔力波形に近くなっているということなのだ。
つまり、ルドと聖従魔ではないただの魔獣とでは、魔力波形はほとんど別物と言えるのだ。
ジュリオ「この子はイーグルとは言えない。ただ、イーグルと全く別の魔力波形とも言い難いね。近しい部分、といううか、要所要所は似ているからね。」
未知の魔獣の魔力波形が示したのは、イーグルではないということだったことには間違いない。
ルド「つまり、イーグルに近い何かとしか分からぬのか?」
ジュリオ「そうだなぁ…」
その魔力波形は、数多の魔獣の魔力波形を目にしてきたジュリオでもみたことのない波形で、最も近いのは___




