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01 ジュリオ・リナウド


 この世界に生きる者は、生まれて7度目の誕生日までに一つの"祝福"を受ける。

 神々がこの地に魔力を与えたと同時に、人間に"聖従魔"を授けた。


 それは単なる魔獣ではなく、"生涯にただ一体だけ現れる神からの贈り物"であり、主の魂の欠片とも言える。それは主の心が生まれた時には存在し、寄り添い、主の死まで共にする。否、主と死をも共にする。全てを共有すると言っても遜色の無い関係である。

 従魔とは、契約を交わすことで使役されている状態の魔獣のことを指すが、聖従魔は従魔契約は愚か、名付けすらも必要としない。


 聖従魔にはランクが存在するが、それは聖従魔自身の魔力量や資質によって割り振られているもので、ひとえに主の強さとも言える。

 中でもウルフ・タイガー・イーグルは最上位聖従魔と呼ばれ、上位聖従魔やその他の聖従魔と比べても一線を画す存在である。


 この"聖従魔制度"こそが、現代の魔術文明を築いた礎である。そして、国の中枢では聖従魔の強弱によって階級が定められているのが現状だ。


 首都セレーヌの中央には、かの有名な大魔導師オルランドが、魔法により生成したとされるクリスタルの塔が六本立ち並ぶ高等学校が存在する。赤・青・黄・紫・白・黒と実にカラフルな色合いである。

 その真ん中に主役かの如く陣取る建物こそ、国内随一と謳われる名門校・セレスティア学園の本校舎である。

 それらの建物をまるで何かから護るかのように、魔力のオーロラで建物を覆っている。


「…うーん、この魔法石だと反応が鈍いな。さっきの魔法石の方がマシか。」


 無造作な灰色の髪の少年は、淡々と石の入ったフラスコを量産し、比較を続けていた。

 机上には、魔法石に魔石、魔導書、実験内容が書きなぐられたレポートなど、魔法実験に使われる道具たちが所狭しと並んでいる。


「ジュリオ。そろそろ休め。三日寝てない。」


 ジュリオ・リナウド。それが研究に心血を注ぐこの男の名だ。


 セレスティア学園は最上位・上位聖従魔を持つ者のみが通う、国内随一の名門校。

 ここで学ぶ者たちは、将来国家の魔導士や王宮騎士、研究官として名を馳せることを約束された存在だ。


 しかし、誇り高き生徒たちの中で一際異彩を放っている存在がいた。

 その人物こそが彼、ジュリオ・リナウドである。灰色の髪に透き通ったシアンブルーの瞳、学園トップの成績を誇る天才にして、生徒会長。しかし、研究に明け暮れるその姿は、異端児と言う言葉が相応しいほどだった。


ジュリオ「ん〜…ルド、もう少しだけ。あと一回だけ試したら寝るから。」


 振り向いた先にいるのは、灰色の毛並みを持つ大型のウルフでジュリオの聖従魔だ。主であるジュリオと同じ透き通るようなシアンブルーの瞳で、心までもを読むかのように、目を合わせる。

 気高く、穏やかで、そしてどこか人間より人間らしい表情をする。そんな気高き聖従魔、ルド。


 ジュリオとルドの魔力親和率は驚異の98%を記録し、『神代の再来』とさえ称されているが、ジュリオの心は名誉にも権力にも惹かれることなく、真っ直ぐに研究とだけ繋がっていた。


ルド「前にも聞いた言葉だな。」

ジュリオ「いいかい、ルドくん。学者はね、結果が出るまで寝ないんだよ。」

ルド「お前は学者じゃなくて、生徒会長だろう。」

ジュリオ「細かいこと言わないの。」


 ジュリオは笑いながらルドの頭をワシャワシャと撫でた。


 ふたりの出逢いは、ジュリオが7歳の誕生日にまで遡る。

 ジュリオは周りと比べると聖従魔が姿を現すのが遅かった。早ければ3.4歳で姿を現す聖従魔だが、ジュリオの元には6歳になっても現れないまま、刻一刻と7歳の誕生日が迫っていた。

 そして、ジュリオの7歳の誕生日早朝、ジュリオを起こしに部屋を訪れた侍女が、ベッドの上でジュリオと添い寝をするウルフを目の当たりにする。それこそがルドである。

 現れた瞬間は誰も目撃していない。しかし、ジュリオは夢の中で、ルドに頭を撫でられたことを覚えていた。


 以来、彼らはずっと共に歩んできたのだ。


ルド「そういえば、リオナが言っていたが、また新しいダンジョンが学園近郊で見つかったらしいぞ。」

ジュリオ「ほう。研究対象が増えたわけだ。」

ルド「…そういう反応をすると思っていた。」


 ルドがため息をつく。

 そんなルドを他所に、ジュリオは興奮冷めやらぬ様子で、気持ちをを抑えきれずに手帳を開いていた。

 "未知の魔力反応"に"封印痕""転移陣"など、ルドから得た情報をどんどんと書き込んでいく。


ジュリオ「ちょっと行ってみようか。」

ルド「それは本当にちょっとなのか?」

ジュリオ「あぁ、勿論。僕の中でのちょっとには変わりないよ。それに今回は調査だよ。危険なら引き返す。」

ルド「前回もそう言って、二日もダンジョンに籠ることになっただろう。」

ジュリオ「あれは、きっとダンジョン内外の時間の流れを変える、それはそれは希少な魔法がかけられてたんだよ。」


 その言葉にルドの尾がぴくりと動く。


ルド「ジュリオの"ちょっと"程信頼出来ないものは無いな。」


 ルドは尾を下げながらも、重い腰を上げることにしたらしい。







___夕暮れ時、空は茜色に染るも、学園は魔力のオーロラによりそれの影響を受けない。

 学園の一角にある生徒会室には、ジュリオとルドのほかにも、3つの人影と1つの人ならざる者の影が集まっていた。


 席を囲むのはツインに三つ編みされた黒髪に金色の瞳を持つリオナ、淡く茶色い髪と瞳を持つカーラの女子生徒2人と、メガネに紫色の髪と漆黒の瞳を持つ男子生徒、リナルドだ。

 そして、リオナの聖従魔であるタイガーのロッコも居るが、床に伏せながら、ルドと身を寄せ合い、主たちの会話を見守っていた。


カーラ「会長!また新しい実験ですか?」

ジュリオ「うん。今回は、聖従魔とダンジョンの魔力干渉を調べようと思ってね。」

カーラ「また難しそうですね…」

ジュリオ「カーラ、君たちも来るかい?」

カーラ「私は今日は遠慮します、!魔法薬学の課題がまだ終わってないですから!」

ジュリオ「リオナとリナルドは?一緒にどうかな?」

リナルド「俺もいかないよ。君が行こうとしてるのはさっき話題に挙がったダンジョンだろう?」


リナルドは開いたままの本から目を離さず、メガネを押し上げ、眉間に皺を寄せた。


ジュリオ「聞くまでもなく。」

リナルド「それなら尚のこと。ダンジョンは最低限の安全が確保されてから行くべきだ。」

ジュリオ「それじゃあつまらないじゃないか。未知の場所に飛び込んでこその研究だろう?それに、冒険者も未知の体験を求めてダンジョンに潜っているのではないかな?」

リナルド「冒険者の気持ちも、自称学者の気持ちも僕には分からないね。それじゃあ、僕は先に失礼するよ。」


そそくさと荷物を纏め、ジュリオには一瞥もくれずに生徒会室から出ていった。


ジュリオ「また振られてしまったか…。リオナは…」


期待を込めたような、懇願するような目でリオナを見つめるジュリオ。リオナだけでなく、ルドとロッコさえもため息をついた。


リオナ「どうせダンジョンの明確な場所も知らないんでしょうから、まぁ道案内ぐらいなら?」

ジュリオ「さすがリオナだよ!」

リオナ「いい!?道案内だけよ!それもダンジョンまでのね!」

ジュリオ「一緒に潜ってはくれないのか…」

リオナ「当たり前でしょ!この間なんて酷い目にあったわ。」

カーラ「ホントです!虫だらけのダンジョンなんてもう二度と行きたくないです!」

ジュリオ「それでも収穫はあったじゃないか。」

「「会長/あんたはね!」」



 そんな掛け合いを聞きながら、ルドは静かに立ち上がる。

 彼にとって、ジュリオの"研究"は日常の延長でしかない。それに伴う危険など、ルドにとっては危険でもなんでもなく、それはルドの圧倒的な力と驚異的なまでの適応能力の賜物と言えよう。








___翌朝、学園郊外の森には2人と2匹の魔獣の姿があった。


 少しの湿った空気に、霧が薄く立ち込めている。ジュリオは簡易的な探査陣を展開し、未知の魔力反応を追っていた。


ジュリオ「ここが、例のダンジョンの入口ですか?」

リオナ「正確には、入口だった場所ね。崩落してるから。道が塞がってるから、入るのは不可能よ。昨日も言ったでしょう?」


そう、リナルドがダンジョン探索を拒否した理由には、崩落によってダンジョン内へ続く道が塞がれていることも含まれていたのだ。


ジュリオ「問題ない。少し掘れば通れる」


 ジュリオは淡々とスコップを取り出した。その様子にリオナもロッコも今更驚くほどのことでは無い。

 そして、ルドは慣れた様子でジュリオを手伝い始めた。


リオナ「ジュリオ、あんたって本当に変なところでやる気出すわよね。」

ジュリオ「好奇心は学問の原動力なのだよ、リオナくん。」

リオナ「いいからさっさと掘って。あんた達がダンジョン内に入るのを見届けたら、私は学校に戻るわ。」

ジュリオ「あ〜ぁ、冷たい冷たい。」

ルド「仕方なかろう。むしろ主に振り回されすぎて対応に慣れたのだろうな。」

リオナ「流石わかってるじゃない。ルドの方が主よりよっぽど優秀のようね。」

ジュリオ「全く…酷い言われようだね。」







___小競り合いをしながらも順調に掘り進め、ダンジョンはの入り口がやっと開けた。

 リオナたちに「それじゃあね」とだけ形式的な挨拶をすると、ジュリオとルドはどんどんとダンジョンの奥へ突き進んで行った。


 そして、そのダンジョン奥地で、ジュリオの視線がある一点に釘付けになる。

 半壊した祭壇と、そこに埋もれるようにして置いてあるひとつの石版があった。


ジュリオ「…これは…"神の従魔"に関する碑文か?」


 ジュリオの声が僅かに震えた。震えの正体、それは畏怖でも恐怖でもない。ただ純粋な好奇心と貪欲なまでの探究心である。

 ルドは彼の横顔を覗き込むようにして、ゆっくりと呟いた。

 その小さな言葉をジュリオが聞き逃すわけがなかった。


ルド「また眠れぬ夜が始まるな。」

ジュリオ「うん。でも、楽しみだ。」


 ジュリオは微笑んだ。

 研究も、冒険も、そして日常も…。彼にとってはそれら全てが世界を知るための一歩に過ぎず、自分の欲を満たすための一欠片に過ぎないのだ。


初めまして。白波瀬 夏葵咲と申します。

ご拝読いただきありがとうございます!

異世界系の小説を初めて書いてみたのですが、如何でしょうか…。是非、温かく見守っていただければと存じます。

自らを縛り過ぎず細く長く続けられるように頑張ります!

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