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第7話 グラウンド整備

◆◇◆


 14:00。わたしは唐揚げ弁当を食べながら、忘れている大切な何かについて考えていた。


 いつもなら、録画してある永久保存版の『リアル野球BAN』を観ながらテレビに向かって「もう一生分の併殺打打ったんじゃない?」なんて呟くところだけど、さすがに今日は観る気になれなくてやめておいた。

 静かなリビングの中で、唐揚げ弁当の咀嚼音だけが響いている。


 わたしが「大切な何か」を忘れているせいで、世界は延々と3月27日を繰り返している……

 いったい何を忘れているんだろう……


 家事なら毎日手伝っているし、大学生に春休みの宿題なんてないし、部活もサークルも関係ないし、あとはプロ野球の開幕を待つばかりで……


「……」


 ダメだ、さっぱりわからない。


「……」


 考え事をしていると、自然と手が止まってしまう。

 お弁当の唐揚げは、いつも通り美味しいはずなのに。

 早く食べ終わらないと、この後のことが何も進まない。

 このままじゃ、何もできないじゃないか。


 何もできない……

 何もしていない……

 ずっと家にいるだけの春休み……

 あ、そういえば……


『何もしないで家にいるだけなら、家の掃除とかしといてくれないかなぁ。働かざる者食うべからずって、学校で習わなかった? 習ってないなら、今から教えてあげようか??』


 ふと、母の小言が頭の中によみがえってきた。

 春休みが始まって、3日ほど経った頃……

 確か、テレビを観ながらリビングのソファでゴロゴロしていたときに言われたんじゃなかったかな。


 あのときは、実家暮らしの大学生としては真面目に料理の手伝いや洗濯物の片付けを終えたあとだったから、まだ何かやらないといけないのかって少しイラッとしたけれど……


 今思い出してみると、言われたことをやるだけの、なんてだらけた生活だったことか。


 部活にもサークルにもアルバイトにも行かず、かといって自主的に家事を手伝うわけでもなく、言われたことをなんとなく手伝ったあとは、家でグダグダと野球関連のニュースをはしごする日々……

 わたしが母の立場だったら、こんな奴もう家から追い出しているだろう。


 言いつけないと動いてくれないって、逆に面倒くさいんじゃないかな。

 自主的に動いてくれたほうが、ありがたいはず。

 何も言ってないのに部屋がキレイになっていたら、嬉しいに決まってる。


「家の掃除……か」


 わたしが忘れている「大切な何か」……

 今日「何か」をするのを忘れているから、明日が来ないってことなら、その「何か」って……


「そうか、掃除か……うん! 間違いない! 掃除だ!!」


 きっと、家中ピカピカにすれば、明日になるに違いない!

 たぶん……いや、絶対「家の掃除」だ!


 でも、これ……

 なんか、お正月に向けての大掃除みたいになってないか……?


 ま、いっか!

 細かいことは気にせず、とにかくやってみよう!


 わたしは急いで唐揚げ弁当を食べ終えると、キッチン横の収納から掃除機を引っ張り出した。

 そして、普段やり慣れないことをする人間の手際の悪さでもって、家中の掃除機がけを始めたのだった。



つづく

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