プロローグ〜順位予想
プロ野球を愛する、すべての人へ。
私なりの、愛を込めて。
◆◇◆
『いやいやいや! あり得ませんって! ――が抜けた穴がそのままなのに優勝って!』
『ええ~っ? そうかぁ? うちには長打力が持ち味の』
『ダメですよ! ――しか打たないんだから! どう考えても得点力不足!』
『じゃあ聞くけどさぁ、おたくのチームはどうなのぉ? ワーストの防御率は改善されたわけ?』
『……うちの話は、いいじゃないっすか』
『ああ、だよねぇ、去年と変わってないもんねぇ。新戦力も獲得できてないし?』
『FAで――が来たからって調子乗ってません!? うちも狙ってたのに!』
『わっはっは! ローテーションも中継ぎも抑えも盤石だなぁ! あとは点を取るだけだぜ!』
『うちの最強打線なら、点はいくらでも取れますよ! だから、投手陣が崩れなきゃ勝てるんです!』
『……』
『……』
『……足して2で割りたいな』
『……そうっすね』
プロ野球開幕前のお約束、順位予想。
開幕前日ということもあって、テレビの中は騒がしい。
タレントさんが、推し球団を上位につけようと躍起になっているのだ。
野球解説者さんたちの順位予想は、やっぱり去年の順位とかオープン戦の結果とかを参考にしているから、真面目で誠実な、見ていて安心するようなものが多い。
でも、なんというか……
それじゃあ、ちょっと物足りないんだよね。
その点、タレントさんたちが推し球団をひいき目にみて予想する順位は、わたしたちみたいな観客の視点が入っているから、テレビの前で激しく頷くことが多い。
そんなわけで、わたしと母は「だよねぇそうだよねぇ」なんて、テレビを観ながら声を合わせていたのだった。
テレビの中は騒がしいけれど、我が家も負けじと騒がしい。
まあ騒がしいのは、プロ野球開幕を心待ちにしている母とわたしだけ、なのだけれど。
「お母さんのチーム、やっぱり投手陣に問題あり、なんだね」
「いやそれはもう去年のシーズン中からずっと言われてるからいいんだけど、それより怪我人だよ!」
「あ~……けっこう抜けてるよね、新聞で読んだ」
「そう! ――も――も――もいない! ほんともう『じゃあだれがいるの?』って話」
「スタメンの予想ができなくて、解説者泣かせのやつだね」
「観てるこっちもスタメン見て『……だれ?』ってなるやつね」
「……ふふ」
「……ふふ」
なんだかんだ言いつつも、母の目は輝いていた。
先ほどまで、推し球団が野球解説者さん全員に最下位予想されて文句垂れてた人とは思えない。
ああ、楽しみだな。
たった5ヶ月ほどのシーズンオフも、ファンにしてみれば永遠に近いのだ。
今までどれほど待ち焦がれたことか。
ついに明日、プロ野球が開幕する。
待ちに待った、わたしたちのプロ野球が……!
時計を見ると23:00で、いつの間にか順位予想の番組は終わっていた。
23:00は、わたしの就寝時間だ。
まだスポーツニュースを観ている母に「おやすみ~」と声をかけて、自室へ撤収した。
1階のリビングから廊下へ出て、2階への階段を上がる。
軋む階段を一歩ずつ昇るたび、明日が近づいてくるような気がした。
日が昇り、日が沈み、また日が昇る……
そうして今日が始まり、今日が終わり、明日が来る……
そんな当たり前のことを、わざわざ意識することなんてない。
けれども、このときのわたしは、考えてもいなかったのだ。
日が昇り、日が沈み、また日が昇っても……
ずっと今日のまま、明日が来ないことがあるなんて……
つづく