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第九話  魔剣フラグの発動

魔導士の街をモフモフで駆ける。

WILD ANTHEM " MUV-MUV " (モフモフ)は金属のケモノ、アーカシ姫さまの前世ではオートバイと呼ばれた鋼鉄の疾風。南にある共同墓地に向けて石畳の大地を這うように進む。


オリビアは後部座席で姫さまにしがみついている。彼女を宿に置いて墓場へ向かおうとするアーカシ姫さまにしがみついて、ひとりで行くなんて絶対許さないと言い張るからだ。そんな彼女の強い意志に根負けして姫さまは同行を許してくれた。なんだかんだですぐ根負けする情の深いアーカシ姫さま。



「きれい……夜空みたい……」



オリビアがつぶやく。

空を見上げれば本物の夜空がある。

しかしモフモフで駆け抜ける街の風景は夜空にはない美しさがあった。

家々の窓から見える灯りが

全て流れ星のように後ろへ去っていく。

あの灯りのひとつひとつに

おだやかな幸せと微笑ましいドラマがあるのだろう。

それは誰かにとって尊い人生の輝き

それはオリビアが関わることなく流れるストーリー。

天の夜空は遠くて冷たい美しさ

街の灯りは近い故に温かさが伝わってくるようだ。



「美しい……切ない……」



オリビアは強くアーカシ姫さまにしがみついた。理由などない。そうしたかったからだ。オリビアにとって世界の全てはこの瞬間の為に存在した。永遠を一瞬の中に見た。センチメンタルが時間を閉じ込め、ロマンティックが夜空を支配する。



「オリビア! 真面目な話や! 真剣に聞け!」


「は、はい」


「今から言う約束を絶対に守れ! 破ったら躊躇なくどつく(叩く)!」


「……はい!」



アーカシ姫さまが怖いことを叫ぶ。姫さまとオリビアが大声なのは、モフモフで走っていると小声では聞こえないからだ。姫さまの言う約束とは魔剣フラグを前にして


・勝利を確信しない

・勝利を焦らない

・相手の敗北を確信しない

・相手の不利を口にしない

・こちらの有利を口にしない

・幸せを暗示する過去や未来を想像しない


「とにかく余計なことすんな!黙って逃げるか隠れとけ!」


「はい!でもどうしてですか!」


「理由は知らん! けど破ったら街が爆発して全員死ぬ!」



◇◇◇



騎士は墓地にいた。


騎士は教会で少年に抱かれた夜に生まれ

騎士は教会で少年に抱かれた夜に死んだ。


墓場に漂う死の香り。

彼にはそれが、心地よかった。


騎士に漂う薔薇の香り。

それは少年に感染うつされた、不死の香り。



モフモフのヘッドライトが墓地を照らす。月の灯りを澱ませる無粋な光に騎士は憤ることもなく剣を抜いた。反射する銀の甲冑が鮮やかに輝き、神話を演じる歌劇の主役登場を思わせた。しかし同時に、生者を黄泉に送る悲劇のカーテンコールを思わせる。神聖な陰鬱さ。



「待たせたな兄ちゃん! ウォンターナ・アーカシ参上!」



アーカシ姫さまがモフモフから降りる。

腰を落とし武術の構え。

姫さまは、相手を殺す覚悟を決めたとき

こう告げることを決めていた。



「我来教你功夫!」(ウチの功夫を見せたるわ)



付き合う義理も道理も無いが

女が素手で一手馳走すると申さば

それに合わすもまた一興

雅に屠るも猛者への手向け為れば



「白教会が聖騎士、サイファ・フェルナンデス、推参おしてまいる



後部座席から降りたオリビアに衝撃が走る。

サイファ? あのサイファ兄さん? そんな……


サイファ・フェルナンデスは侯爵家本家筋の長男、しかし当時の当主は乱心により王家より死罪を賜る。家は取り潰しとなり、侯爵領は分家だったオリビアの家が継いでいる。サイファはフェルナンデスの地を捨て教会の騎士団に入るも死んだと聞いていたが……オリビアはたまらず声をあげる。



「サイファ兄さん! 生きていらっしゃったの!」


「いや、死んでるで」



アーカシ姫さまが代返する。混乱するオリビア、彼女は幼少のみぎりに何度か本家長男と顔を合わせた程度で、正直サイファが本人かどうかわからない。しかも死んでる? 偽物ってこと? それともまさか……



騎士サイファ、剣を抜かず拳で突く。中段左正拳。

姫アーカシ、中段右外受けにて捌く。

騎士サイファ、続き正拳で突く。上段右正拳。

姫アーカシ、左上段受けから発展し回し受け、一百零八スーパーリンペー

騎士サイファ、体を崩す、隙ありッ!


【中国山陽武術:黄家八馬拳 九裸式太原尾実掌】


並べたコインに、コインをぶつけると端のコインが飛ぶ。

同じように回転した体で体重を掌に乗せるとどうなるか。


こうなる。


騎士の甲冑は大きく窪み、半円の模様を新たに刻む。

相当な衝撃を受けたはずが騎士は表情を変えず、わずかに口元から血を垂らすのみだった。



「やっぱアカンか、ふつう死ぬねんけどな」


「いや、見事な一手、感服致した」


「世辞はいらんねん、かかって来んかい」


「戯れは此処までと致す」



騎士サイファ、ここにきて兜をかぶる。魔剣フラグを手に取り、アーカシ姫さまにかざす。表情は見えないが、笑っているような気がした。



「主君は姫君の血を所望しておられる、潔くその身捧げよ」



【Erlkönig hat mir ein Leids getan】


魔剣フラグの自動詠唱機が作動、特定条件を採取し爆発を起こす。

魔技【 DARLIN' 】が発動したのだ。







【中国山陽武術:黄家八馬拳 九裸式太原尾実掌】

──注釈

岡山県倉敷市にある大原美術館は

とにかくロマンティックでファンタスティック

エル・グレコ「受胎告知」が有名だが

モネやゴーギャンの名画が見れる

シャガール展とかやってほしいな……


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