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第六話  黒い薔薇の騎士

鐘が鳴る


教会で騎士は、少年にかしずいている。

彼らを取り囲む、白い聖職者たち。

皆一様に無表情である、少年を除いては。


教会の聖母を描いたステンドグラスから差し込む色鮮やかな光が2人を包み込む。

神聖にして清らかな空間

少年は淫靡な唇で騎士に

新たなメニューをオーダーする。



「ウォノターナのお姫さまが、辺境の地にいるんだって」


「…………」


「凄い美人だって噂だよ、ボクも会ってみたいな」


「…………」


「姫さまをここに招待して豪華なディナーをご馳走しよう」


「……御意」


「ふふ、御馳走になるのはボクなんだけどね」


「…………」



少年は髪を掻き分け、剣を手に騎士の元へ歩み寄った。

そして耳元で淫らな声で囁く。



「昨夜はご馳走さま、美味しかったよ、君」


「……御戯れを」



少年は剣を騎士の胴に刺す。

随分乱暴なアコレード。

騎士は体と口から血があふれ出すも微動だにしない。

少年は騎士に熱を帯びたサディスティックな視線を送りつつも、冷ややかな声で勅命を下す。



「ウォノターナ・アーカシの首を持ってこい、心臓でも良い」


「委細承知」



騎士は刺さった剣を自ら引き抜くと、恭しく少年に返そうとした。

しかし少年は見向きもせず、一声残し立ち去っていく。



「魔剣フラグ、それは君に貸してあげるよ」



◇◇◇



アーカシ姫さまはモフモフを洗っている。一応街の人たちに見つからないよう隠していたのだが、昨日の一件で衆目に晒されてしまい、開き直って宿屋の裏に連れてきたのだ。街の人、とくに魔導士たちは興味津々らしく、先ほどまで集まってきては姫さまを質問攻めにしていた。魔導士たちは魔道具に詳しく、既に構造を理解してアドバイスを送るものまでいた。



「潤滑と……冷却用の……人工血液を……交換しましょう……」


「魔装発火プラグも交換した方がええかな」


「いい焼け色ですから……無理に変えなくても……大丈夫……」



やがてお昼時となり、人が去った後でもアーカシ姫さまはモフモフを洗っていた。久々に腰を据えて洗車とメンテナンスが出来るので、汗と油にまみれながらも姫さまは夢中になっていた。先に食堂で待っていたが、いつまでたっても食事に来ない姫さまにしびれを切らしたオリビアが、宿屋の裏に現れた。



「姫さま、もうお食事の時間ですよ」


「うん、あとちょと……」


「姫さま、ずいぶん念入りに洗っておられますね」


「洗うっていうか、注油や」


「姫さま、ずいぶんお汚れになりましたね」


「風呂で洗ろたらしまいや」


「姫さま、わたくしが洗ってさしあげますわ」


「はあ?」


「姫さま、わたくしが念入りに洗ってさしあげます」


「自分で洗うわい」


「姫さま、お望みでしたら注油もいたします」


「意味わからん」



アーカシ姫さまは作業を中断して立ち上がる。オートバイの洗車は突き詰めるとメンテナンスであり、メンテナンスもまた本質的には洗車である。中身のない改造と汚れたバイクは本人以外興味も無いし、周囲からバカにされている。情けないバイクを自慢気に乗る者の姿を見ていると、自称不良の妄想武勇伝を聞かされた時と同じ気持ちになるのだ。アーカシ姫さまは前世の記憶でそれを知っていた。だから自分で手をかけたモフモフが可愛くて仕方がない。



「ほな飯でも食うか」



アーカシ姫さまは宿の食堂向かった。オリビアは嫉妬していた。自分は姫さまに洗ってもらったことがないのに、コイツばっかりゴシゴシと……

その発想が既に狂っていると自覚しているが、このまま食堂に向かうも業が沸く。かるくモフモフを蹴とばした、とはいえ靴だと傷がついてかわいそうなので、脛でちょんと触れただけだった。しかし、実は先ほどまでエンジンは人口血液循環のため動いており、車体の一部は熱せられていたのだ。


じゅわあああ。



「ぎやああああああああああ!」



脛を焼かれたオリビアの絶叫が轟く。侯爵令嬢が出してはならぬ獣のような叫び声に周囲の人々が集まってくる。見れば足を押さえ悶え転がる女が一人。



「あの娘は確か、殺す殺すと絶叫していた……悪魔だ」

「大声で笑いながら走っていたというぞ……悪魔だ」

「ままー、あのお姉ちゃんって昨日の……悪魔のひとだー」

「み、見てはダメ! 目を合わせちゃダメ! 悪魔なのよ!」



誤解が広がっていく。いや、真実かもしれない。



◇◇◇



騎乗した騎士が街道を駆ける。

胸に開いた穴は既にふさがり、一人無言で夕焼けの中走り続ける。

蹄の音が鳴り響くのはこの道が無人の荒野だからか。

いや、違う。

矢が飛ぶ。

剣で弾く。

岩陰の盗賊が息を潜めて獲物を待っていたのだ。

高価な装備を身にまとう騎士、徒党を組まれては太刀打ちできないが、間抜けな事に1騎。盗賊は11人。身ぐるみ剥いで金に換え、騎士に下々の生活費を恵んで頂こう。盗賊の1人が騎士に告げる。



「命までは取らん、甲冑と剣、そして金を置いて立ち去るがいい」



元兵士だった盗賊は知っている。騎士を殺すと報復されると。騎士団が調査に乗り出し、メンツにかけて執拗に探してくる。あれは厄介だ。

馬から降りる騎士。

本当に間抜けだ、騎乗で戦えば有利だし、なんなら走って逃げられる可能性もあるだろうに。金だけ渡して許しを請う気か。盗賊の代表として姿を現わした男に騎士は近づく、当然、盗賊はいきなり斬りかかる可能性を考慮して警戒している。


【Erlkönig hat mir ein Leids getan】


騎士が持つ魔剣フラグの自動詠唱機が作動、遠ざかる白い景色、周囲は大爆発を起こし盗賊もろとも粉塵と化した。もはや騎士以外、いや、騎士を含め生きた者のいないこの荒野で、自らも片腕を吹き飛ばした彼はつぶやいた。



「一手馳走仕る【 DARLIN' 】と称す魔妓なり、然らば御免」



騎士はまず吹き飛んだ腕を拾い上げ、自分の体に取り付けた。次に魔剣を拾い上げる。まだ扱いになれていないらしい、爆発が大きすぎる。特定の条件で威力の上がるこの魔剣は、調整を必要とする。あと何人か殺して試す他あるまい。


騎士は馬に戻り再び駆けだす。

目指すは魔導士の街。







「随分乱暴なアコレード」

──注釈

アコレードとは、西洋の風習

王様が騎士に剣で肩をチョンチョンってするやつ

配下が手柄を立てた時などに、上に立つ者が行う

現代では抱擁したり、手で肩を叩いたりすることが多い


◇◇◇


【 DARLIN' 】

──注釈

D'ERLANGERのアルバム「BASILISK」の曲

ファーストシングルでもある

D'ERLANGERはV系の中でも耽美の極み

前作「LA VIE EN ROSE」も素晴らしい


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