表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/44

第十話  兜割り

舎利丸しゃりまると赤い武者が2名、つまり3騎の人外は効率的に殺戮を行っていた。赤い武者は無粋な効率より猟奇的な惨殺を好むが、その芸術性を理解しない舎利丸が許してくれないのだ。より多く、早く、無駄のない殺戮、質より量をモットーとする舎利丸チームは既に数百名の殺害を達成していた。


とはいえ舎利丸にも好みはある。彼は少年少女、幼少な子供の叫び声を優先的に聞きたがっていた。まず手間がかからないし、続いて親の悲鳴も聞ける。理不尽に慣れた大人より、あきらめを知らず全力で抗う子供たちのフレッシュな叫び声は、人間関係……いや、人外関係に疲れた舎利丸をリフレッシュさせるのだった。



「さあ、夜が明けるまでドンドン殺してまいろうぞ!」


「ォ―」

「ゥィー」



やる気に満ちた舎利丸とイマイチ気の乗らない赤い武者たちは声をあげる。いまひとつな声量に不満を覚えつつも舎利丸は新たな殺戮指示を出す。そろそろ大規模で反撃してくるであろうミソノ・ユニバの自警団を一挙に食らうため、策を練って陣を張るのだ。



「偃月 (えんげつ) の陣、これへ」



舎利丸が告げると赤い武者2騎は膝を突 (つ) き、自らの刃で腹を突 (つ) き、流れる黒い血は大きく前方に広がった。自警団がここに足を踏み入れれば硬化させた血の槍で串刺しにする方策である。新たな死を待つ夜の月 (つき)。



◇◇◇



赤い武者たちの背後に迫る2つの影、信濃守千代丸と南木景樹である。市街に溢れる死骸を踏み越え、血に染まる地を踏みしめ、現況の元凶である舎利丸に辿り着いたのだ。景樹はここが本陣であると知っている。千代丸はこの惨劇が、わずか5名で行なわれたとは気づいていないし、聞かされても信じなかっただろう。


【 中国山陽武術:広司馬拳 東洋鯉出塁脚 】


南木景樹は加速した。初老とは思えぬ俊敏さは元より発揮していたが、赤い武者を目視してから尋常ではない速さで走り出す。まずは膝をつく武者の背後に飛び蹴り。

それは風よりも早く

それは林よりも静かに

それは火よりも熱く

それは山よりも重い

それは飛竜の如きドロップキック。


【中国五拳:葦原中国脚あしはらのなかつくにきゃく


信濃守千代丸は確かに聞いた

風が吹く音を聞いた

林が揺れる音を聞いた

火が燃える音を聞いた

山が揺れる音を聞いた

南木景樹は龍に姿を変えた、それほどの飛び蹴りだった。


南木景樹の右腕が自動詠唱機を作動させていたが、砕け散る赤い武者の炸裂音で聞こえなかった。ただ光る梵字だけが黒い霧と砂塵の中で浮かび上がっていた。唯一生き残った最後の赤い武者、舎利丸が叫ぶ。



「お、御屋形さま! 何故斯様なにゆえかよう仕儀しぎを!」


「……来るなと申したはずだ」


「されど、盟主不在では我らとて冥府魔導に彷徨います」


「……左様か、ならばここで死ね」



一応解説しておこう。冥府魔導は地獄であると解釈して頂きたい。そして舎利丸は彼ら赤い武者たちが地獄に彷徨ってしまうと言いたいのではない。罪のない無垢な人々を地獄に引きずり込む手段に迷うと言いたいのだ。つまり南木景樹は……



「御屋形さま、どうかお戻り頂き我らを導きあぶぇぇぇぇ」



地に伏せ頭を下げ、額を砂に擦り付ける舎利丸の頭を、南木景樹は武者から拾った日本刀で突き刺した。その切先は兜を貫通しフェイスガード(面頬)を叩き割り、地面に突き刺さった。


信濃守しなのかみ千代丸は驚愕した。南木景樹、なんと兜割りを実現したのである。しかも突きで。それも貫通している。刃物が兜を貫通するなど、絶対に在り得ないとされる伝説の神業である。自称はともかく客観的な達成者は存在しない。


人体最大の急所である頭部の防御は甲冑において最優先であり、兜は時代や地域を問わず最先端の技術と徹底した硬度・厚みで作られている。貫通など在り得ない。ただし頭部への攻撃は貫通せずとも極めて有効、強い打撃は脳震盪で相手を昏倒、あるいは致命傷を負わせることが出来る。



ぶぢゅ。



舎利丸は兜ごと、日本刀を頭から引き抜いた。貫通した後頭部と額から、滑稽なほど吹き出した血は、黒さの中に赤みを帯び、生臭い匂いを撒き散らしていた。



「余りに御座る、余りに御座るぞ御屋形さま」



舎利丸はこの状態においても絶命、いや、消滅していなかった。左右別方向を見つめる目は涙を流し、南木景樹に恨み言を吐く。景樹は追撃する構えを見せたが、舎利丸は不自然に後方へ浮かび、その姿を霧と闇に紛れ込ませていく。



「口惜しゅう、口惜しゅうございますぞ……」



舎利丸は最後まで呟いていた。やがてその声は遠のき、幾許かの時を経て黒い霧はミソノ・ユニバの街から消えていった。地平線から覗く朝日が見事な朝焼けを見せ、教会は警戒態勢を解いた。それは霧の除去を確認できたのと、白い教会の先遣隊が到着したことを意味していた。


南木景樹は姿を消す。

その後を信濃守千代丸は追った。







【子供】

──注釈

実は「子供」と「子ども」を使い分けている。別に小説を読む上で気にして頂く必要はないが、「子供」という表記には侮蔑的意味を含むからである。ゆえに公共機関では「こども」で統一されている。

例)「こども支援課」「こども未来館」「こども家庭庁」


◇◇◇


【 葦原中国 (あしはらなかつくに) 】

──注釈

日本神話における天国(高天原)と地獄(黄泉)の狭間にある世界。多種多様の解釈があるが、中国地方の語源であるという説を本作では採用している。

とはいえ賢明なる読者諸氏に至っては、すでに作中に記載される中国拳法の名称が悪ふざけの言葉遊びであることは当に見抜いておられよう。そう、深い意味など何もないのである。


◇◇◇


【兜割り】

──注釈

日本刀で日本の兜を叩き割ること。よほどの粗悪品なら在りうるかもしれないが、常識の範囲内で言えば不可能。明治19年(1886年)天皇陛下の前で披露された兜割りでは、日本中の剣豪が辞退する中、直心影流の榊原鍵吉が兜に刀を1.5㎝めり込ませた。たったそれだけ?と思う勿れ。これは見る人が見ればわかる恐るべき奇跡なのだ。


◇◇◇


……ていうか、この小説って異世界ファンタジーだよね?

中世ヨーロッパ風のナーロッパが舞台だよね?

なんか時代小説みたいになってるんですけど?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ