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第四話  オリビアの誘惑

オリビアは恋に落ちた


街の宿屋には各部屋に浴室があり、先にオリビアが使わせてもらった。失礼に当たると固辞する彼女だったが、アーカシ姫は後がつかえるとゆっくり洗えないといって聞き入れない。やむなく先に入らせてもらい、今は1階の食堂でお姫さまを待っていた。


食堂は夜に居酒屋として飲食や酒を提供しており、主に冒険者たちで溢れていた。街の住民である魔導士の姿は少ない。豪快に酒を煽る冒険者たちは、清楚なオリビアが一人で席に座っているのが気になるらしく、誰から声をかけるかで争っている。下品な話題や誇張した冒険譚が飛び交う中、アーカシ姫さまが階段から降りてきた。


オリビアは恋に落ちた


宿屋で借りた質素な服、濡れた金髪をオールバックで梳 (くしげ) たその姿は、凛とした目と薄い唇も相まって、神々しさを醸し出していた。

聖女だ。

誰かがそう呟いた。その声を誰もが耳にするほど、その店は静まり返っていた。そしてオリビアの前に座る。アーカシ姫さまのワイルドなお姿しか拝見したことのなかった彼女は、はじめて見る姫さまのおでこにも感動したが、なにより全てが美しく輝いて見えた。


顔も身長も、端たないことを承知で言えば胸も標準的、むしろやや控えめな、適齢期の女性を絵にかいたような外見ではあるが、引き締まった体と涼しい目つき、長いまつ毛、品のあるしぐさ、男女問わず誰もが跪きたくなる強烈なカリスマ性を現わしていた。


オリビアは恋に落ちた


この美しさを独り占めしたい、誰の手にも触れさせたくない。ましてや下品な男どもが触れるなど指一本でも許さない。姫さまに命令されたい、残酷なオーダーを受け無慈悲に実行したい。姫さま、姫さま、姫さま、姫さま……



「すんまへーん!酒とカエルの素揚げ、あと牛のキ〇タマ焼きください!」



ぶふぉ。

姫さまのハスキーな大声が居酒屋に轟き、そこにいた誰もが吹いた。

聞きなれない方言にも驚いたが、よりによって注文したのが口にするのも憚れる品である。オリビアも口に含んでいた水を吹いた。



「お? 牛のチ〇コもあるやんけ、すんまへーん!チ〇コも焼いて!」


「ひ、姫さま!」


「こういう珍味は酒が進むんや、すんまへーん!チ〇コは香辛料強めで!」



恥辱に耐えるオリビア。彼女の願い通り下された残酷なオーダーだったが、喜んではいないようだ。



「お待たせしました……葡萄酒と……ご注文の品です……」



魔導士の給仕がカエルと牛のキ〇タマ焼きを持ってきた。

居酒屋の客はそれぞれ無言で食事を口に運んでいる。

先ほどまでの活気は嘘のようだ。

味がしない、男性冒険者は特にそう感じていた。

アーカシ姫さまは葡萄酒を一瞬で飲み干す。



「酒うっすいな!もっと強いの無いんか」


「葡萄の……蒸留酒なら……ございます……」


「ほなそれ瓶ごと、あとチ〇コまだかチ〇コ」


「すぐ……お持ちします……」



香辛料たっぷり焼き立てのチ〇コを給仕が持ってきた。

アーカシ姫さまそれをナイフで切り分けることもせず、掴んで……食いちぎった。

男性冒険者の嗚咽が居酒屋のあちこちで聞こえる。



「オリビア、あんたも食うか?」


「けけけ、結構です」


「ほら、遠慮せんでええから」


「許してください……」


「旅はこれからも続くんや、これ食べて精つけていかんと」



アーカシ姫さまは精がついて聖がきえた。

恥辱に耐えて赤くなるオリビア。

酒が回って赤くなるアーカシ姫。

そして男性客は青くなっていた。



◇◇◇



部屋のランプを消した。

アーカシ姫さまとオリビアは就寝する。二人は同じ部屋だ。



「なあ、オリビア」


「はい、姫さま」


「この部屋ってベッドは二つあるやんか」


「はい」


「なんであんたウチの横で寝てんの」


「おかしいですか?」


「おかしいやろ! 自分のベッドで寝んかい!」



チッ。



「なあ、オリビア」


「はい、姫さま」


「今、舌打ちせんかったか?」


「気のせいです」



アーカシ姫さまはそのまま眠ることにした。オリビアも年頃とはいえまだ幼い所もある、寂しくて人恋しいのだ。添い寝くらい許してやろう、そう考えたのだった。



「なあ、オリビア」


「はい、姫さま」


「なんでウチの手を握ってるんや」


「指先が冷えないようにと」


「今、夏やで」



ずいぶん甘えてくるなとアーカシ姫さまは思ったが、思えば侯爵家の四女、さぞ可愛がられて育ったのだろう。陰謀渦巻く王家とは大違いや。ウチがこの年の頃は、暗殺に備え安心して眠ることなど……



「なあ、オリビア」


「はい、姫さま」


「なんでウチの足に手を添えるんや」


「脈を測ろうかと……」


「足で測れるか!」


「では胸で……」


「自分のベッドに帰れ!」



しぶしぶ移動するオリビア。アーカシ姫さまは旅に出てから暗殺は心配しなくなったが、別の意味で安心して眠れなくなった。



◇◇◇



翌日、一人の聖職者が酒に酔って街の中心にある噴水で吐いていた。


なぜだ、なぜ誰も私の言葉に耳を貸さない。

下劣な魔法など研究する魔術師どもに

神聖な神の教えを説いてやっているのに

わかりやすく私の解釈まで加えているのに


まるで私が妄想を語る狂人のような態度を見せやがる。

人の生き様に口出しするなと言わんばかりの態度を見せやがる。

まずは自分で結果を見せろと言わんばかりの態度を見せやがる。


魔導士どもめ、くたばれ。

万物に平等な愛と祝福を与えし神よ、彼らに残忍な天罰を!


まるで矛盾した聖職者の祈り、しかしそこに絶対の意思が加わり

人生という生贄を捧げ神の奇跡は成就する。


聖職者は噴水の水で口をゆすぐと、水面に浮かぶ卵に気が付いた。

それは小さな鉄の鎖が付いており、四角い灰色の窪みがあった。

手に取ると、その窪みに文字が浮かぶ。


सूर्य देव का जन्म तो सृष्टि के प्रारम्भ हुआ है और आपका जन्म तो अब हुआ है



獣の姿で人語を話し、人の倫理を理解する者が魔獣と定義するならば

人の姿で人語を失い、獣の倫理で思考する者を魔人と定義すべきか

ともあれ自称・聖職者は見事神に選ばれた。



騒ぎを聞きつけ街の衛兵が駆けつけた時は、噴水の周りの屋台が何軒も壊され、白い聖職者の服を着た男が暴れている。人間の数倍の重さはある噴水の彫刻を片手に振り回し、取り押さえようとした人々が倒れている。溢れたであろう噴水の水は、どういう訳か凍っている。男は白い雄叫びを吐く。


「ふ、ふう、ふうううううう」


男の背中から白い液体が噴き出し、やがて翼となる。まるで天使に見えなくもないが、むしろ邪悪な冷気を放つ。衛兵は魔術師ではなく街の冒険者が雇われ務めている。ゆえに実戦経験豊富な先鋭と言えるが、このような魔獣は見たことがない。


弓を放つ衛兵、命中するも男は怯む様子もない。槍で穿つ衛兵、その穴から新たな冷気を放ち危うく彼らの足を凍らせるところだった。近寄れない。


聖職者を名乗っていた男に人としての思考はない、ただ神に授けられた使命を果すのみ。生きとし生けるものが生まれ持つ神の使命とは産めよ増やせ、そして汝を滅ぼさんとする者を滅せ。彼はそれに従い、まずはこの街の住民を殲滅する。







「カエルの素揚げ」

──注釈

鶏肉に似てるという人もいる、しかしカエル独特の風味が人を選ぶ

良く味わえば感じる池の匂いとでもいうべき後味

あと、意外と骨がでかい


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