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第八話  廃墟の旧都 ミソノ・ユニバ観光案内

廃墟の旧都、ミソノ・ユニバの見どころについて紹介しよう。この街は270年前までウォンターナ王国の首都として栄え、現在も人口は約35,000人を誇る大都市である。それでも王城が移され旧都となったのは、東方と呼ばれる地域との国境が近く、しばしば異民族との紛争が起こり治安が安定しなかったためである。


しかし気候が良く、近隣は農業が盛んで、豊富な農産物が街を潤していた。城門から街に入ると、まず初めに大通りへ出るのだが、そこは屋台が名物で、新鮮な果物が店頭に並び、特に深夜も営業しているアリョーナ小母おばさんのミックスジュースは街で一番との評判である。


アリョーナ小母おばさんは今、壁の真っ赤な染みになっている。

彼女が最後に作ったのは体を張ったトマトジュースだった。

赤い武者は美味しく頂いた。



「甘露、甘露♪ 」



大通りを進めば職人街に入る。ここはミソノ・ユニバがかつて王都だった頃の名残で、宝石や刀剣の加工はもちろん、釘やネジなど工業製品の生産工場も立ち並び、職人たちが受注した鉄鋼品を納期に間に合わすべく徹夜作業は当たり前で深夜も灯りが絶えない。特にアガフォン小父おじさんのネジは王国屈指の精度を誇る。


そう、今全身にネジを喰い込ませているその人だ。

わざわざ時間をかけて捻じ込まれたらしい。

アガフォン小父おじさんの絶叫を、赤い武者は美味しく頂いた。



「甘露、甘露♪ 」



五人の赤い武者は、本来食事を必要としない。そもそも体内に消化器官があるのかすら怪しい。彼らは味わいたいだけなのだ。栄養素を補給するための食事など欲しない。本能が要求するのは極上の味と満腹感、人間と同じだ。つまり彼らは人間だ。その証拠に一度食べだすと止まらない。美食の為に残酷な行為に躊躇が無い。


赤い武者が人間と違う部分があるとすれば、彼らは舌で味わわない。苦痛に悶える姿を目で味わうのだ。死に際の美しい絶叫を耳で味わうのだ。生命が死への抵抗を重ねる様相を愛でて堪能するのだ。黒い霧が深まっていく。



さて、次の見どころはミソノ・ユニバの教会。ここは孤児や重病人が多く、もちろん敬虔な聖職者や清らかなシスターもたくさんいますよ。お楽しみに。




◇◇◇



信濃守しなののかみ千代丸は飛び起きた。猛烈に立ち込める血の匂い。戦か? いや、それにしては静かすぎる。しかし漂う危険な香りは、状況を把握するまで動きたくない千代丸を急かすほど迫ってきている。彼は同じ宿に住む子どもたちを叩き起こし、すぐさま教会へ避難を開始した。


ミソノ・ユニバの街は行政よりも教会が重視されている。なんなら行政は教会の為に存在していると言っていい。名前も知らぬ街の政治家が暗殺されたところで井戸端の噂話になる程度だが、病院でもある教会が攻撃されたとなれば、住民は徹底的に反撃を行うだろう。それは人道的にも信仰的にも許されることではないし、なにより自らの命を守る最後の砦なのだから。


ゆえに教会は自警団の駐屯地が近い場所にあり、何かあれば近隣に応援を求める体制も整っている。そして現在、避難してきた人が集まり始めている教会は自警団を編成し、多くは防衛のため、そして一部が侵入者の討伐に出撃している。



討伐隊の一陣が接敵。

赤い東方風の甲冑、得物は片刃のロングソード。

目視で確認できる数は2名。

顔はフェイスガードで覆われ表情や人種は不明。

討伐隊のリーダーに任命された荒くれものが叫ぶ。



「おい! 刃物を捨てて両手を上げろ!」



◇◇◇



赤い武者がふたり


お互い向き合って

お互いの刃で

お互いの下腹を突き刺した


吹き出す大量の黒い血液



「うわ! なんだ! ここにきて自決か? 」



討伐隊のリーダーは叫んだが、それは無言で武器を構える7人の討伐隊員も同じ気持ちだっただろう。わけがわからないが、これは東方の奇怪な風習か何かか?


討伐隊の者たちがそう考えるのも無理らしからぬ話ではあるが、いくら彼らに馴染みのない東方の風習だとしても、いきなり異国に乗り込んで殺戮を行いお互い腹を斬り合って自決するなど不自然だし在り得ない。当然赤い武者には別の意図があった。


赤い武者が互いに突き刺した下腹部から流れる黒い血は、じゅわりじゅわりと地を這いながら討伐隊へ向かい、彼らの足元へ伸びたかと思えば、彼らの股下で槍のように地面から垂直に伸び、彼らの体を貫通した。黒い血の先端は彼らの口から、眼球から、頭蓋骨を貫通し頭の先から、それぞれ姿を現わした。



「甘露、甘露、甘露♪ 」

「甘露、甘露、甘露♪ 」



赤い武者は、あえて1名を残し討伐隊を美味しく頂いた。彼らの絶叫や抵抗が少なかったのは物足りないが、逃がした1名が仲間に報告することでより多くのご馳走を運んできてくれるだろう。いまは死んだ討伐隊員の未来を奪った喜びを堪能するだけで良しとしよう。


さて舎利丸殿や別の武者仲間も宴を堪能していることだらう。彼奴らと合流した時に、互いに語り合ふであろう自慢話にもっと花を添えてやらねばナらん。彼奴らも粋な宴を繰り広げておるだらう。うききき、仲良きことは美しき哉。







【味わわない】

──注釈

「味あわない」 ✕

「味わわない」 〇

個人的には「味あわない」の方が読みやすい


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