第二十九話 狂気山脈、粧(よそ)ふが如く
モフモフは狂気山脈を駆け抜けていく。アーカシ姫さまとオリビアは魔導士の街に一度戻ることにした。姫さまが手に入れた日本刀(玄君七章刀)を調べてもらうためだ。緑に茂っていた道は装いを変え、赤く枯れた姿を見せていた。
大きな影が空を覆う。耳を押し付ける気圧、見上げれば滑空するドラゴンが姫さまを追いかけていた。空に青銅の竜、地に鋼鉄の獣。向かう所敵なし。
はるか前方より接近する二足歩行の影在り。秋の狂気山脈に溶け込む赤い体の怪物。体長3m前後と推測、周囲に気配なく一体のみ確認。アーカシ姫さまはモフモフを停め、車体から降りる。
日本刀を手に1人で怪物を相手にするつもりらしい。片手をあげドラゴンに手助け不要と合図する。伝わったらしく上空を旋回するドラゴンはアーカシ姫さまの活躍を楽しみに見守るのだった。
「ほな、かっこええとこ見せたろか」
アーカシ姫さまは日本刀を抜く。抜きたい。抜けない。刀が鞘から抜くことができない。いやいやいや、ここに来てそれはないやろ! 二足歩行の怪物、駆け走り寄る。焦る姫さま。ドラゴンとオリビアは姫さまがこのピンチをどう切り抜けるかワクワクして見ている。本人は焦りまくっている。
「おおおおおいッ! 抜けろ抜けろ抜けろぉぉぉぉ! 」
アーカシ姫さまの刀は情緒不安定で機嫌が悪く鞘から出てこようとしない。刀を置いて素手で戦うのは荷が重い相手だ、徒手格闘は人間相手を想定した技しかない。かといって鞘のままぶん殴るのは無様すぎる。たのむ!うちに恥をかかさんといて!
アーカシ姫さまの頭をよぎるのは先日俳句(?)で少し機嫌を直した件だ。そうか、今、一句読めばええんやな……ってそんな簡単に作れるか! うわわわ! めっちゃ近づいてきたぞ! やばい! 時間が無い! ええと! 秋! 山! 刀! これでどないや!
──── 玉鋼 峰に打つりし 秋の山 ────
時が止まり
音が消える
静寂の中に
独り動いて
姫は抜刀し
刃の舞踊で
紅葉を斬る
【玄君七章刀 神派久島流 秋月の舞い】
音速を超えると音が変わる。アーカシ姫さまの刀は風を切る小気味よい音は立てず、空間を引き裂くような弾ける気圧を周囲に与えた。チクリと耳を刺す感覚にオリビアは顔を顰めるが、怪物は斜めに大きく切断されていた。3mの胴体を、半分以下の身長しかない姫さまが切ったのである。
「おおきに、憚 (はばか) りさんどしたな」
アーカシ姫さまは刀を鞘に納めた。怪物は切断面をスライドさせて崩れ落ちた。竜は旋回をやめ飛び去った。見守る必要が無いと判断したのだろう。オリビアは、いままで見たことが無い姫さまの美しい所作に呆然と見とれていた。
◇◇◇
聖騎士サイファはミソノ・ユニバに帰らなかった。欲望を満たしたはずが、更なる情欲に飢えてきたのだ。喉の渇きを癒そうと、海水を飲めばどうなることか。そこに聖騎士としての誇りは無く、次なる獲物を探し求める、美しくも汚らわしい獣が存在していた。
ミソノ・ユニバが近ければ、サイファはそこで惨劇を開幕しただろう。鮮やかな赤いカーテンを、より鮮やかに赤黒く染め上げただろう。しかし彼が選んだのはより近い餌場、魔導士の街だった。
聖騎士サイファは一睡もせず街へ向かう。一休みもせず足を進める。普通の人間なら疲労で倒れ力尽きるだろう。そう、人間なら。
◇◇◇
狂気山脈を超え、魔導士の街まで近づいている。明日の朝には辿り着けるだろう。まずは黒い神殿で刀を調べてもらおう。こいつも自動詠唱機のような、魔導装置があるのだろうか。
アーカシ姫さまはアクセルを開き旅を急ぐ。
【玉鋼 峰に打つりし 秋の山】
──注釈
俳句なんて書けないよ……
どうすりゃいいんだよ……
さすがに全然知らない分野だよ……
◇◇◇
第二十八話 " Justiφ " Standing by ……Error!
の 「 投 稿 時 間 」 をご覧あれ!




